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祭特有の雰囲気。
太鼓の奏でる音楽。
賑わう人の群れや熱気。
焼き物の芳ばしいにおい。

それらを感じながら、神楽は履き慣れない下駄で人混みの中を歩いていた。




「暑いアル…。」

うちわでどんなに扇いでも生ぬるい風しかこない。
だがこれも年に一度と考えると嫌な気はしない。

神楽は顔を綻ばせながら、男どもに買わせたヨーヨーやキャラクターのお面を装備して焼きイカを食べる。




(みんな自分勝手アルな)

今日の昼から支度を始め、銀時と沖田と一緒にオーダーメイドの浴衣に着替えた。
何かと張り切っていた神楽はお妙に髪を結ってもらって、夕方にぞろぞろと大勢で祭に来た。
…のは良いのだが、




「……………。」

銀時はフラフラと酒に惹かれて、沖田は出店の覇者になると走っていって、お妙はモグラ叩きでマジで戦って、スナックお登勢軍団は出店の店主たちと話し込んで、
本当にまとまりのない人間だとしみじみ思う。
それは出店のにおいにつられてあちこち歩く神楽自身もそうなのだが。

男どもからむしり取ったお駄賃はまだある。
足りなくなったらすれ違った時にでも貰えばいい。
そんな時、ある出店がすぐ横にあった。




(あ、林檎飴)

が、無い。



























神楽は早歩きで人混みをかき分ける。
それはもう無我夢中で周りの音など聞こえないぐらい。

それは先程の事。
祭は始まったばかりだというのに商品が無いなんておかしい。
そう思って店主に聞いてみると、祭の準備を手伝ってくれた男が根こそぎ持って行ったという。

明日になればまた林檎は入ってくるし、今日は付近の店を助けるとか笑って言っていた。
そして最後に気がかりな言葉が、




「私とそっくり…。」

神楽は高鳴る心臓を抑えながら、いつの間にか小走りになっていた。
そして途中で視界に入ったチョコバナナを掻っ払う。
その時も、長谷川さんのツッコミなんて聞こえやしなかった。




(いや……そんな、)

まさか、
まさか、
まさか、

………本当に?




「………………。」

足を止めてキョロキョロと辺りを見渡す。
だがそれらしき人物、それらしきアンテナは見つからない。

神楽は冷静になろうと、深呼吸する。




(いったん落ち着くアル…)

世界は広い。
世の中では自分に似ている人間は3人いるとテレビでやっていた。
そのうちの1人がアイツだとしても、まだ1人いる。
きっとその1人に違いない。




「ふー……。」

いつもアイツを思い浮かべるなんて、アホらし。




「あ…。」

不意に大きな破裂音。
それが空に響いて、一気に綺麗な花を咲かせる。

そういえば花火は前半後半に分けてやるとかビラに書いてあったと思いながら、神楽は空に目を奪われた。




「………………。」

赤、青、黄、緑。
暗い空を照らしては消え、小さな花がいくつも散らばっては消えていく。
その儚さが風流だとか何とかと誰かが言っていた。
意味はよくわからないが、目が離せなくなっているのは事実。
それが答えなんだろう。

空を眺めていた次の瞬間、一気に視界が暗くなった。




「な…っ」

「だーれだ。」

目を覆う何かに触れる。
その声で、誰が何をしているかがわかった。
が、答える前に手を引っ張られてしまう。




「ちょ…っどこ行くアルか!」

「そこまで。」

だから走って。

言われる前から既に走っている。
後ろからよく知ってる声がしても振り返ることができない。
それでも悪い気はしない。
これもきっと祭のせいなんだろう。





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