1/3












たまたま入った甘味処で、
たまたま頼んだ団子を食いながら、
たまたま横に目を向けたら、
たまたま見たビラがそれだった。
















(キセキマキオコス ヒカリ キラリ ソノ、)












「夏祭りねぇ…。」

銀時は立ち上がって壁に貼られているビラをまじまじと見る。
手書きで書かれたお品書きやイベント詳細には何とも言えない趣があった。

が、




(変な思い出しかねーからな…)

昔から夏祭りに行っても歩き食いしかしなかったし最近じゃどっかの俺様に再会して目をつけられたしそのまま色んな面倒事に巻き込まれるしそっからはそれ以上のことさせられるし去年なんて野外プレイがどうのこうのってめっさ焦らされたしまぁ気持ちよかったのも興奮したのも事実なんだけどそれを考えたら今年はどうなんだってなるし事あるごとにどっかの馬鹿がしでかすから俺の身が…って、
夏祭りはアイツとの思い出しかねーじゃねぇか。
うーわ恥ず。

銀時は最後の1つの団子を食べ終わると、頭を掻きながら席へと戻っていく。




「………………。」

今年も…会えるのか。




「…なんてな。」

我ながら乙女だと思う。
毎回さりげなく誘われるし、誘われなくても祭りに行けば会える。
だから大丈夫、なんて確信に近い期待を持っているのだから尚更女々しい。




「あ。」

「お、」

銀時がふとビラから目線を外せば、店に入ってきたばかりの土方と遭遇する。
お互いの顔を見るなり険悪な空気が…というわけでもなく。
今回は憎まれ口も黙ったまま会釈だけした。

それは土方も同じらしく、何も言わず店内を見渡して銀時の隣に座った。




「……………。」

「……………。」

いや…わざわざ俺の隣に座らなくても。
確かに空いてたしどこに座るのも勝手だけどよ。




「んだよ。」

「いーや、雁首揃っておとなしくってのも気持ち悪ぃなって。」

「まぁな。
てめぇは何してたんだ。」

「あ?
俺はいつも通り糖分接種だけど。」

「席立ってたじゃねぇか。」

「あぁ、夏祭りのビラが目に入ったんでね。
どうせお前らポリ公は見回りだろうけど。」

「夏祭りだ?」

土方の目線が壁のビラに向く。
そしてざっと内容を確認すると、ふぅとため息を吐いた。




「そういやそんなイベントもあったな…。」

土方は店員に銀時と同じものを頼む。
そして煙草を吸おうと取り出したが、そのまま戻した。

その様子に、銀時は疑問を抱く。
いつもの鬼がどこへやら。
会話ついでに聞いてみたくなった。




「で、腑抜けた面はどうしたんだよ。」

「嫌なら見んな。」

「はいはい、今の俺は優しいからねー。
無償で何でも相談にのるよー。」

「……………。」

土方はチラリと横を見る。
団子の串を持った銀時がニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。
つまりいつもの万事屋。
それに安心したのか何なのか、土方は遠くを見つめたまま口を開いた。




「…部下に困ってる。」

「あ、匿名希望ね。」

「そいつはやればできるんだが仕事と休日のメリハリが無くていつもマイペース。
それは常日頃な感じで慣れてんだが…最近悪戯の度が過ぎててな。」

朝一でいきなり襲撃してくるわ、飯は取られるわ、仕事中にも隙あらば俺につっかかってくる。
最初はいつもの悪戯だろう、どうせ飽きればすぐ終わると思っていた。
しかしここ数週間ずっっっと四六時中やられっぱなしで、さすがの土方にも疲労が出てきた。

故に対処方としてシフトを被らないよう組んでできるだけ会わないようにしてみたが、どうやら逆効果だったらしい。
昨日は布団やら仕事に使う小物がごっそりと無くなっていたのだ。
さすがに度が過ぎている。
しかし注意をすれば図に乗って更に質の悪い事をやらかすに決まってる。




「どうしたもんか…。」

「……………。」

個人名は出されてないがだいたい検討がついた銀時は、いつものように適当に答えようとした。
が、土方の疲れた横顔を見ては何も言えない。




(どこまでも純粋だな多串君は)

悩みなのか惚気なのか自慢なのか。
だが土方を見る限りマジな悩みなんだろう。
銀時はうんうんと頷いて土方の肩を叩いた。
そして店員が持ってきた団子を1本貰い、先ほど見ていたビラに再び目を向けた。
そこで閃く。




「まぁまぁそんな暗い顔しなさんなって。
相手は気難しいお年頃ってわけで、俺からいい提案があるぜ副長さん。」

団子を食べながら銀時は閃いた案を語り出す。
それには土方も頷いたり、眉を寄せたりしながらも聞いていた。

そして前の通りを歩いていた厄介な気配には気付かなかったことにする。





[*前へ] [#次へ]

戻る
リゼ