incantatoreな貴方へ









何というか、こう。
暇なわけじゃないけど、何か今は何もしたくない…ような気がする。
気分的にね。




「…………。」

最近、放課後になると憂欝になることが多い。
雲雀本人はとうに自覚しているが、解決策が見つからないので心が晴れ晴れとしないまま数日が過ぎていた。

風紀委員の仕事は常に忙しい。
風紀が乱れていれば自分の手で処理するし、書類が相手ならば夜中まで没頭することもある。
だがいつもこんな感じで、日常生活に変わったことは1つもない。

なのに何で、




「運動不足、じゃないよね。」

「こんな細い体して何言ってんだ。」

「別に普通…でしょ。」

「よう。」

「…ふぅ。」

「なんだ?
今日は一段とリアクション低いな。」

「今そういう気分なの。」

不法侵入者は咬み殺す、
というお決まりの台詞も出てこない。
これはいよいよヤバイと考える雲雀に対し、イタリアからやって来たディーノは不思議そうに雲雀を見た。




「恭弥が静かなんて、珍しいこともあるもんだな。」

ディーノはそう言って雲雀の頭を撫でた。
これもいつものことなのに、やはり心は晴れないまま。
そんな些細なことに悩んでいたら、室内に入ってきたディーノの気配にも気付かなかった。
そんな自分に腹がたつ。

解決しない苛立ちが雲雀を襲うが、ディーノの手の温もりによって抑えられた。




「中坊の青臭い悩みか?」

「…何だろうね。」

「もう20時だぞ。
そろそろ帰らねぇのか?」

「何もしたくない。」

「こりゃ重傷だな。
風紀が乱れてる。」

「誰の。」

「お前の。」

雲雀は正論を言われてしまい、しばらく黙って考える。
取り締まる側の人間の風紀が乱れていては威厳がなくなってしまう。
さて、どうしたものか。




「……………。」

雲雀はチラリとディーノを見て、視線を合わせた。
すると脳より先に足が動く。
衝動的に動いたので特に意味は無いが、雲雀はディーノと向かい合うように立ってみる。

全ての事においてディーノは自分より先輩である。
それに自称家庭教師と威張っているのなら、この悩みはわかるんじゃないかと雲雀は考えたのだ。
一方のディーノは雲雀の訴えがわかったようで、腕を組んで考えはじめた。




「まぁ……なんつーか。
とりあえず今は何にも考えないようにすることだな。」

「何それ。」

「今日は早く寝て、身も心も回復しろってことだ。」

「僕はそんなこと一言も、」

「“何がわからないのすらわからない”って状況なんだろ?
俺だったら寝てまた明日の気分に任せる、ってことだ。」

「へぇ。」

簡単に言えば、僕は疲れてるってこと?

確かに疲れというのは目に見えないし、あまり感じたこともない。
寝れば無くなるものだと思ってきた。
じゃぁこの疲れの原因というのは一体、




「こーら。」

「む…、」

雲雀が考えていると、
頬を痛くない程度につねられて現実へ引き戻された。




「考えるなって言ってんのにまた自己分析してたろ。」

「…いはい。」

「その顔やめろって。
お前いっつも考え過ぎ。」

そんなどうしょうもない生徒には、先生がロマンチックな魔法をかけてやるよ。
そう言って、ディーノは雲雀の頬に手を添えて唇に軽いキスをした。
本当に軽い、けれど熱い。

魔法と言われて馬鹿馬鹿しいと思った雲雀だが、
ディーノの唇が重なった一瞬だけ、何故か頭が真っ白になった。




「…………。」

魔法、ねぇ。




「恭弥?」

「貴方って本当にどうしようもない人だね。」

「何だそれ。」

「もういいから、早く帰るよ。」







使
(解決策が見つかるまでなら)
(魔法を信じてもいい、なんてね)





09,03/30
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