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「雲雀…さん、」

「何。」

「私、本の点検が。」

「そんなの君ならすぐできるでしょ。」

今はこのままでいさせて。

恭がそう呟くと、凪は顔を真っ赤にさせる。
背後から抱き締められて身動きがとれないうえに、耳元での猫なで声。
こうも甘えられては、さすがの凪も抵抗できない。




「でも、風紀委員に見つかったら…。」

「制限時間付きだけど、許可はとってある。」

そう言って、恭は凪の首筋や顔色、さらにはスーツのにおいまで念入りに確認した。

恭は弟の昼御飯を買いに、1回学校から出た。
そして昼頃、戻ってきてからはずっと図書室で凪を待ち伏せていた。
何も知らず、出張から帰ってきた凪が図書室に入った途端、恭に捕まり今に至る。




「出張先では何も無かったようだね。」

「そんなの、当たり前でしょ。」

「それでも心配なの。」

「っ…!」

「君が誰かに色目を使っていないか、って。」

「ぁ…まって……っ」

ここは誰もいない図書室。
恭と凪は本棚の影になっているが、鍵をかけていない。
それなのに恭は凪の首筋に吸い付いてくる。




「んっ……ッん、」

もう、ダメ…っ




「ッ…雲雀さ、ん。」

「なんだい。」

「これ以上は…っ」

「何故?」

「私‥これから授業が…。」

「嘘。
君に午後の予定は無かったはずだよ。」

弟の権威により、恭は学校の裏事情や教師の予定などは事細かに知っている。
だが予定は当日になって変わることもあるので、そんなときは生徒会長を頼っていた。

本当、こんないい学校は他に無いよ。




「こんなものかな。」

恭は凪の首筋を見て笑みを浮かべる。
ちりばめたキスマークは、凪への想いを形にしたもの。
あとはキスマークが消えないうちに凪を抱けば第一関門はクリアなのだ。




「…………。」

「…………。」

さぁ困った。
甘い空気から、沈黙の重い空気に変わってしまった。

凪は色々と話題を探すが、見つかったとしても自分から話すことができない。
これが緊張というものなのか。
凪の口はパクパクと動くだけ。

そんな様子の凪を察したのか、ふいに恭が凪の頬を撫でてきた。




「…嫌そうな顔をしてるね。」

「え………。」

凪はピクッと反応し、振り返って恭を見上げる。
するとそこには少し寂しそうな顔をしている恭がいた。




「別に‥嫌とは言ってないわ。」

「でも無理をしてるみたいだよ。
僕に付き合うのが嫌なら嫌って言って。」

「……………。」

そんな、急に言われても‥。




「…じゃぁ、」

「……………。」

「ちょっと…だけ、離れてください。」

「わかった。」

凪はおどおどしながら言った。
断られるかと思ったが、恭はあっさり凪から離れた。
そして本棚から1冊の本を取り出すと、図書室の角にあるソファーに座って読み始める。

一方、解放された凪は複雑な思いを胸に抱えながらも本の点検に取りかかった。




「……………。」

「……………。」

どんな状況になっても、
空気の重さは変わらない。

何をしても、恭といる時間は空気が重すぎて苦手だった。
それなのに体や心は嫌だと言わない。
この矛盾が凪を苦しめる。

なぜ彼といると異常なまでに緊張してしまうのか。
なぜ嫌がらない自分がいるのか。
それは自分に問題があるのか。
考えれば考えるほど、よくわからなくなる。

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