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「今日はハグだけね。」
「だから何ですか。」
「簡単なゲームだと思ってくれればいいかな。
ルールは今日1日、セックスとキスは無し。」
リビングでくつろいでいた骸に、白蘭はいきなり宣言した。
遠距離感
「簡単に言えば、
キスとかセックスとか、したりねだったりしたら敗け。
誘って相手の心を揺さ振るのは作戦だからいいよ。」
「勝敗に価値はありますか?」
「うーん、
バレンタインらしくチョコの奢りとかかな。」
「のりました。」
チョコのためなら、どんな馬鹿馬鹿しいゲームでもやってやろう。
骸の中の野心が燃え上がり、ゲームに参加することに決めた。
要は今日1日、キスやセックスをしなければいいのだ。
これは絶好の機会。
体を休ませる時間が欲しいと思っていたところだ。
しかも勝てばチョコが貰える。
白蘭にしては良い提案をするものだと、骸は感心した。
「あれ、
なんか喜んでない?」
「気のせいですよ。」
昨晩の情事によって、喉や足腰にダメージがある。
しかも徹夜。
今日ぐらいは寝たい。
安心して寝たい。
「じゃ、僕は仕事だからお先に。」
「これから仕事って…ゲームの意味が無いじゃないですか。」
「お楽しみは夜ってこと。
帰るの8時ぐらいだから覚悟しといてね。」
「ん…。」
ゲームの意味を理解した骸は、いつものように目を閉じた。
しかし白蘭はハグだけで終わらせる。
期待していたものと違う感触に戸惑ったが、先程のゲームの内容を思い出して納得した。
そして、いつもの癖がでたことに恥ずかしくなる。
「先走りはよくないよ。」
「ッ早く行ってください!」
「はいはい。」
恥ずかしさのあまり、骸は顔を逸らしてしまった。
白蘭とのスキンシップが習慣化して、いつのまにか癖になっていたことに悔しさを覚える。
そんな骸を慰めるかのように、白蘭は骸の頬に手を添えると顔を近付けた。
「…………。」
「…………。」
だがしかし、
あと数oというところで止まる。
感じるのは安定した吐息。
そして目の前には相手の顔。
間近で白蘭の顔を見たことが無い骸は、しばらく白蘭を見つめて目を閉じた。
「…誘うのが上手くなったじゃん。」
でも今日はハグだけだから。
「チョコのためなら誘い受けでもしますよ。」
「うわ、これは強敵だね。」
「では僕は寝ます。」
「さっき起きたばかりなのに?」
「徹夜に付き合わされたのでね。」
「でもえろい声であんなに僕の名前呼んでたじゃん。」
「おやすみなさい。」
骸は白蘭との会話を打ち切るように勢いよくシーツを被った。
そんな骸の頭を撫でると、白蘭は黙って部屋を後にした。
扉が閉まる音が聞こえると同時に、骸はベッドの上で仰向けになって天井を見る。
「………………。」
今日は例のゲームによってかなり調子が狂いそうだ。
しかし、一般的に見ればこの生活が普通なのだろう。
それでも目を閉じれば白蘭に触れてほしいと体が疼く。
こんなに自分を狂わせた彼が憎たらしい。
骸はウズウズする体を無理やり押さえ、静かに目を閉じて眠りについた。
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