不器用なオベディエント






「むーくろくーん。」

「うわっ」

仕事から帰ってきた白蘭は、いきなり体当たりを仕掛けた。
骸が文句を言おうとする前に頭をよしよしと撫でられる。




「僕は犬ですか。」

「どっちかって言うと、命令を聞かない猛犬かな。」

「…そんなに噛まれたいんですね。」

「冗談だよ。」

怖いなぁ、なんて言ってるが、本当は全く怖がっていないのだろう。
いつものくだらない時間が始まった。
骸は頭を撫でられても反抗せず、好きなようにさせた(というか放っておいた)

白蘭の近くにいると、花のような甘い匂いがほんのりと漂う。
香水なのか何なのか。
そんなことを考えていたら、白蘭の手が伸びてきて頬に触れた。
そして目線が変わる。




「何か、期待してません?」

「いつもやってるでしょ。
おかえりなさいのちゅー。」

「ッ…う、うるさい!」

そう反発してハッとする。
この返事だと白蘭の言ったことを認めたようなもの。
骸が弁解しようとして必死になるが、白蘭はいつものようにヘラっと笑っていた。

自分が白蘭に心を開きつつあるのは、彼が一番知っているだろう。
その証拠に、触られて嫌と思わないし普通に喋っている。
今だって、いつのまにか抱き締められているし、頭が彼の胸板にきつく埋められている。
ここまでされても反抗しない自分がおかしくて笑ってしまった。




「苦しいです…。」

「胸が?」

「・・・・・。」

「いッッ!
ちょ、本当に噛みつくわけ?!」

「少しイラッときました。」

「まったく…。」

唇に添えた指を噛まれて、白蘭は多少ひるんだ。
そして観念したのか、骸を抱擁していた腕をほどく。




「嘘をつかないのはいいけど加減ってものを知らないの?」

「僕の中では加減した方です。
それより、貴方のせいで綺麗に整えた髪が乱れました。」

「そんなのまた直せばいいじゃん。」

「貴方ね…軽々しく言いますが、」

「もう離れようか?」

「…………。」

まったく、いつもこんな調子だ。
人の話なんて聞こうとしない。
毎回毎回僕を見下ろすように、そして挑発的な言葉。
彼の言葉が疑問系なのは僕の意見を聞くため。
彼なりに気遣ってくれているらしいが、本人は絶対に見返りを求めない。
白蘭が何を望んでいるのか、聞いてもどうせ本音では答えてくれないだろう。




「…貴方に任せます。」

骸の言葉に白蘭のパチクリ顔が返ってきた。
貴方が望んだことを言ったまでなのに、そう思った骸だが今までのことは白蘭のキスに流されてしまった。




「その返事は、君にはまだ10年早いよ。」

もっと甘やかしてくださいって顔に書いてあるけど?





(言葉で言い表せるほど、僕は器用じゃないので)

08,06/01
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