君を例えて猫ならば







「やっほー…って寝てるし。」

白蘭がドアを開けても、部屋は静まり返って人の気配すらしない。
いつもならお出迎えしてくれて「ご飯。」と目で訴えてくるのに。

そう思って部屋を散策していたらソファーで寝ている黒猫がいた。




「これはまた大胆に‥。」

「……ん、」

「おはよ。」

「……びゃく…ン。」

顔の輪郭をなぞると、さすがに骸は起きてしまった。
だが引き下がる気はないので白蘭はそのまま唇を重ねる。




「ん……ン。」

「…寝起きの不意打ちは初めてだね。」

「僕にとっては結構な挨拶ですよ。」

「でも嫌じゃないでしょ?」

「……………。」

「ならいいや。」

何回もしているが、骸は慣れてくれない。
キスをするのに恥じらいを感じているのか、そう思いながらも骸の体を抱き起こす。

心搏は高い。
脳がまだ目覚めてなくても、体はしっかり起きているらしい。




「今日はずいぶんと早いじゃないですか。」

「ご飯が遅くなると不機嫌になる猫がいるからね。」

そうですか、と返事をすると骸の指が白蘭の唇をなぞった。
白蘭は誘いに乗り、骸をベッドの上に寝かせて好きなようにやらせる。
気をよくした骸は絡むために白蘭の体を撫で始めた。
厭らしく、そして丁寧に。

頭を撫でれば擦り寄ってくるし、顎を撫でればキスをせがんでくる。
これほどの芸ができるのは気分屋の猫しかいない。




「……びゃく…らん。」

「ん?」

「……………。」

きゅっと胸元のシャツを握ってきた。
言いたいことはわかってる。
本来なら本人の口から素直に言わせるのだが、それまで待てそうにない。

今日は特別。
すんなり受け入れてあげよっか。




「夕飯まで1時間か‥。」

「……………。」

「大丈夫。
時間は少ないけどちゃんと可愛がってあげるから。」

「……ばか。」

そう言ってまた唇を重ねた。
キスのし過ぎじゃないかと思われがちだが、これは骸の気分なのだから仕方がない。

僕としては、骸君を外に出さないよう繋ぎ止めておきたいぐらいだけど。
猫は自由で気まま。
体なんか縛ったらストレスがたまって懐かなくなっちゃうよね。




「っ…熱い……。」

「君の唇がね。」

そう言うと、頬をぺちぺち叩いてきた。
これは照れ隠しの一種であり、もうお触りオーケーというサインでもある。

気難しい猫を持てば飼い主が大変だが、対策を見つけ出せば苦にはならない。
そう思いながら、飼い主は猫に覆い被さった。




(これが基本)


08,07/17
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