氷砂糖(1)

「…ねえ、芭蕉さん。」

曽良はその美貌を僅かも崩れさせずに、ただ芭蕉を見据える。もっと正確に言えば、芭蕉には崩れていないように見えた。中年を組み敷いているおかげで曽良の顔には陰が落ちていた。

「僕知ってるんです」
「あなたが、へんたいだってこと」

「おもしろそうだなと思うんですよ」
「退屈、してたので。」

彼は言葉を続ける。ただ続けていく。
まるで言い訳みたいだ。芭蕉は霞の掛かった頭でぼんやりと考える。むやみには叩かれたくないから口には出さない。
何に対しての言い訳だろう?彼は芭蕉に話しかけているようで、低音は芭蕉の中に染み込んでこない。


芭蕉は陽溜まりそのもののような人間だった。いつもにこにこと笑みを絶やさずに人々の中心にある。彼が毎日立つ交番には老若男女が集まり、街角のその小さな建物から暖かい灯りが町に滲んでいくようだった。
曽良は大学に通うため芭蕉の町に越してきてからずっと、芭蕉を見つめていた。4年間見つめ続けて、生来の聡明さと大学まで続けた剣道の腕を持って警察官になった。

いわゆるエリート組での合格も勝ち取ったにも関わらず、冷静沈着と評判の若者が選んだのはノンキャリアからのスタートだった。
運良く見慣れた交番勤務となって、見慣れた男を上司と呼ぶようになった。
そして今、その男を安いラブホに組み敷いている。








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