1.初めて
「誠、今日のラッキーアイテムはゲームらしいわ」
そう言った後、続けて母さんは俺に「ゲームをやってる子がいたらその子と友達になってきなさいな。 きっといいお友達になるはず」 なんて言ってきた。
母さんの能力は予知ではないけれど、その言葉は本当になったから驚きだ。
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いつものように、机に突っ伏して眠ろうかと思った時に一人でゲームをやってるやつの姿が目に入った。 おかしいことはそいつのことをみんなはまるで全然見えていないかのようにしてること。 朝の母さんの発言もあって、気になったから話しかけることにした。
「何のゲームやってんの?」
そいつはちらりともこちらを見ない。
「なぁ、聞こえてる?」
ぽんっと肩を叩けば、びくりと驚いてそいつはDSを落とした。
「なんっ、で……ボクのこと、見えてるの?」
え、なにこいつ幽霊か何かだったの?
「あの、その……能力、使って、見えなくしてたんだ、けど」
前髪で隠れて表情は全然見えないが、びくびくと怯えているのは一目瞭然。
「あーなるほど。 なんか俺って能力の影響受けにくいらしくって……だからかも?」
「そう、なんだ……?」
あ、ゲーム落ちたまんまだ、と思い拾って画面を見るとそこにはよく見慣れた戦闘画面。
「ポケモンか、俺もやって……」
「ポケモンやってるの?! え?! 最近のも?!」
……急に元気になった。 なんか、キラキラしてる。
「ポケモンは初期の頃から最新のまで全部やってる」
そう俺が言うとそいつはパァァァという効果音が付きそうな感じに喜んだ。
「あの、えと、もしよかったら、なんだけど! ボクと友達になってくれないかな?!」
「俺で、よかったら」
「んっと、友達になる時は名前教えて握手! だよね?! ボクの名前は光! よろしくねー!」
「俺は黒崎誠。 よろしく」
右手を出すと自分より少し小さな汗ばんだ小さな手がぎゅっと握ってきた。
「高校入ってはじめての友達! 陸くん聞いたらびっくりするだろーなー!」
「陸くん?」
「ボクのお兄さんみたいな人! 望っていう双子のお兄ちゃんもいるの! 誠くんは兄弟いる?」
「俺は……妹みたいな子ならいるかな」
「そーなんだー! 今度会いたいな! 誠くんの妹さんならきっといい子!」
賑やかなのはあまり慣れていなかったけれど、一所懸命あのね、あのね!と話す光と一緒にいるのは苦にはならなかった。
その声を子守歌代わりに寝てしまった時も光は特に気にせず、起きた時に「昼寝好きなのー?」とにこにこと聞いてきた。
今まで能力のせいで急に寝てしまう自分には友達と呼べる存在はなかなかいなくて。
みんな一緒にいることが嫌になって離れていって。
でも、光はその日以来、俺の隣にいることが多くなった。
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「くーちゃん! くーちゃん! 見て! グーグルマップにポケモンいるよ!! ゲットできるよ!!」
「おーすげえな」
ゼニガメ捕まえた!など無邪気に言う光を見ながら癒やされるなぁとほのぼの思っていると、ふと、この前テレビか何かで聞いたことを思い出した。
「あれっ? くーちゃん難しい顔してどしたのー? ポケモン見つかんない?」
「そうじゃなくて……んー、なんでもない」
「え、気になるー!」
「いや、光見てると癒やされるなぁと、思って」
「へっ? あ、ありがとう……?」
なでなでと髪を撫でるとえへへーと光は照れながらもにこにこ笑っていた。
確信はないから言わない……言えないけど、一緒にいて癒やされたり、信頼できる友達ってさ……親友って言うらしい。
俺にとって、そんな存在、光が初めてだったからまだ、よくわかんないんだけど。
それでも、あの時、話しかけてよかったなぁって思うんだ。
「光、あのさ」
「んー?」
「今日ポケモン持ってきたんだけど」
「ほんと?! やった! バトル! バトルしよ!」
今日も昼休みはあっという間に過ぎていく。
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