60.無邪気


光が幸せなら、他のことなんてどうだっていい。

ボクにとっては光が全てだから。




泊まりがけの仕事が続いて、「あぁ光不足で死にそう」 なんて考えていたら、マネージャーが時間を作ってくれた。
久しぶりの帰宅に頬が緩む。
でも、もう光は寝ているだろうから家にはそっと入らないと。

まるで悪いことをしているみたいにそっとドアを開けた。

おかしい、電気が点いてる。
消し忘れかな、と不思議に思いつつリビングに続く扉を押すとソファの背もたれの上から少し見えた見間違うはずのない二葉のようなアンテナ。

「……光?」

声をかけても反応がない。
ソファまで足音をたてずに近づき顔を見た。
どうやら寝ていたみたいだ。

ふと気になって机を見ると、夕飯らしきものがラップされて置いてある。
今日帰れるのがわかったのはついさっきの事だから、連絡はしてなかったのだけど……?
それどころか、昼にメールで今日も帰れないと言ってたはずなのに。
光はいつもこうして遅くまで、ボクを待っていてくれてたの?
ごめん、ごめんね……光。

寝ている光がくしゅんっとくしゃみをした。
いけない、このままじゃ風邪を引いてしまう!

光とそっくりなこの姿では運ぶことは出来ない。
目を軽く瞑って、身長が高い姿をイメージして変身完了。

そっと光を横抱きにしてベッドに連れて行って寝かそうとしたのだけど……離れない。
シャツをしっかりと掴んでるみたい。 可愛すぎる、光まじ天使。 寝言とかで名前呼ばれたら確実に死ねる。

あぁ、でも時々この小さな手がボクなんかに触れて、いいのかなって不安になる。
だってボクは汚いから。
光には真っ白なままでいて欲しいなんてボクの勝手な願望だってわかってる。
でも、望まずにはいられないんだ。

―……どうか、キミだけは無邪気なままでいて
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