序章
朝比奈に、婚約破棄の電話を入れたのは30分前。
本当は、こんな重大な用件を電話で済ませるなんて非常識だと分かっている。そんなふうに人を傷つけることさえ平気そうに振る舞うことで、自分を非道な女に仕立てあげたかったのだ。
朝比奈は理由も聞かずただひとこと言った。
「わかりました」
怒りの素振りも見せず。
「これからも、きみの幸せを祈ります」
と、静穏なあの声で静かに電話を切った。

泣いてはならない、断じて。私は、これから鬼になるのだ。
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