ブルーグラフティ


「灯り、消そうよ」

名前がそう言ってキャミソールの袖に手を掛けるボクを制した。
だけど、ともったあかりは小さなベッドライトだけだ。これだって物足りないくらいなのに。

「駄目だよ。」

ボクの強張った主張に対して、名前が戸惑った表情で何か言いたげにする。当惑にも無理はないと思う、いつもは君のために部屋中の電気を消すのだから。だけど、言葉が織りなされる前にその唇を奪ってしまった。驚いてかつぐまれた口元に、ボクの舌が割り入る。誘うように上唇を軽く吸うと艶めかしいリップノイズがひびく。名前が小さく息を逃がしたのを合図にお互いの舌をあやとり始める。たまにお風呂上がりのいいにおいがするとボクの口付け方は荒々しさを増した。

「どうしたの、ロッド」

キスを終えてもやっぱり不安げな様子の名前が荒がる吐息の切れ間に言った。
返事の代わりに首筋を舐めあげるとすこし体をよじる名前。ライトをつけたままキャミソールをまくってしまうと名前が小さく縮こまった。あらわになった胸元を強く撫でるとその手足がもぞもぞとシーツを掻く。つぎに指を腿へすべらせるとその脚がピンと緊張したのがわかった。より脚の根の方へと刺激を移していくと、名前から「だめ」と訴える言葉があった。けれど構わず、遮る腕をのけてしまう。
下着をのいてすぅっとなぞり上げると、そこはあつくぬめっていた。固く小さな突起に指の腹が引っかかる。

「あぁ、」

震えた声が小さくひびく。

「見ないで、お願い」

両手で顔を覆ってまだ拒む姿に、乱暴な感情が湧きあがる。

「見ないでなんて、言うなよ」

ただボクに、感じているところを一つ残らず見せて欲しかった。
目隠ししている片腕を剥いで手首をベッドに押しつけながら、指を遊び続ける。
ぎゅっと瞼や唇を結んで堪えるような様子は、ボクのしらない名前だった。なのに膣から絡め取るぬめりは十分すぎるくらい溢れていて、それをまた突起に擦ると名前の腰が引く。灯りの元だと全部が見えた。すっかり起った乳首も充血してぱんぱんのソコも。そこだけをじっと見ると、クリトリスをヌルとはじく度にわかりやすいくらいヒクついていた。
ねぇ、恥ずかしがってるくせに、何でこんなに濡らしてるの?こんなに優しくないのに。思えば思うほどボクはイジワルになっていく。

「ほら。ちゃんと見てるから、名前も見て」

言葉と共に、抑えていた手首へぎゅっと力を込め、放してやる。名前は顔を真っ赤にして恥じらったけれど、もう何も隠そうとはしなかった。そしてボクに従って、恐る恐る愛撫を見ていた。ボクは一度見せつけるように音を立て乳首を吸った。それでも名前は赤らんだ顔でじっと見つめていたから、股を思い切り開かせた。名前はイヤイヤと首を振ったけど、腿の付け根に顔を埋めた。恥ずかしがりな名前にこんなことをするなんて考えられないことだったのに、ね。

「あっ……や、だ、」

外側から内側へ、そっと舌を這わせると大きく上擦った鳴き声がした。おおげさにクリトリスを舐めてしまいながら中に指を沈めると鳴き声はもっと響く。抵抗はほとんど無く、ヒドく感じているみたいだった。どころか、言葉と裏腹、ボクの顔が恥ずかしいトコロにうずまるのに目を離さない。
指先で上壁を擦ったり圧迫を繰り返すと舌に触れる突起はますます固くなった。指を増やすと、くちゅくちゅといやらしい音でいっぱいになっていく。見るからに膨れ切った突起を少し吸うと今まで一番大きく名前の腰が跳ねる。

「ねえ、気持ち良い?」

舌をやめて三本目の指をさし入れながら、半ば名前へのしかかって囁く。帰ってきたのは甘いため息と小さな頷き。それが期待通りの答えだったのかはわからないけれど、ボクの胸が自ずときゅうと締まる。それから名前の手がボクの股間に運ばれ、部屋着越しにそれを擦る。だんだん指を絡めるような動きに変わって、ボクのそれは硬くなったカタチを浮き立たせはじめる。そしてその手が下着を滑りこんで直に触れてくる。名前の手はボクと同じくらいの熱を帯びていて興奮を訴えるようだ。大胆な君に驚きながらも、ボクは素直にいきっていく。

「もう、いれて」

苦しそうに乞われ、ゆっくりと中を溶かしていた指を引き抜くともう一度名前のため息がひびいた。
纏っていたものをぜんぶ脱ぎ払ってしまうと、名前がボクの身体をすごく熱っぽい瞳で見詰めた。いままでも、そんな顔をしてボクを見ていたのかな?その睫毛も、頬も、唇も、オレンジの光にぼうっと照ってやけにあでやかだ。こんなに、初めての君だらけ。

「いれる、よ」

亀頭をいりぐちにあてがってから、ボクが名前のナカに入っていくところもぜんぶぜんぶ見えた。
腰を深めると、吸いこまれるように一つになっていくのを感じる。またゆっくり、ぎりぎりまで引き、沈みを繰り返す。すっかり本能的になった名前の嬌声はボクをもっと貪欲にする。首にはいつの間にか名前の腕が絡んでいて、快感が頭を痺れさせて行く中で肌と肌とが湿っぽく擦れる感覚がした。
だんだんうちつけるようにすると、名前の腰も求めるように動き始める。出し入れの度に二人の気息は熱く溶けあう。
はたと、どちらともなく唇を合わせればすぐに貪るようなキスに変わった。正しく息をするのも忘れて夢中で口付け続けると、もう繋がったところはとろとろに溶けたようにあつくなって。

だけれど、長い長い接吻が終わって口唇が離ればなれになった時。ボクの影で気持ち良さそうな顔をして喘ぎ続く名前にまたも得も言われぬ不安がわきあがる。もはや快感以外にわかるのは、火照った体中を汗が滴っていくことだけだったのに。
ちゃんと、顔が見たい……見て欲しい。伸ばした手が名前のあごをくい、とこちらへむける。

「好き?……ボクの、こと、すき?」

理性が消えていく中で、必死に声を絞る。
もやのかかる湿気た視界の中で、一瞬、目を丸くして切なげにボクを覗く表情がわかった。

ボクは体付きが男らしくなければ、性格や振舞いだって大人らしくすらない。トクベツ器用でもないし、何に自信を持てるのか、自分で解らない。
そうしたら、こうやって余裕無くなよなよした奴の、なにに魅力があるというのだろう。
そしてボクは今、どんな顔で君と見詰め合っているんだろう。

そんなことを考えていても本能は君を瞳に捕らえて腰を砕き続けていることにいっぱいいっぱいだ。名前は無遠慮な刺激に途切れない鳴き声を続けつつもその視線でボクを捕らえて放さない。そして喘ぐ間に、何度も何度も訴えかけるような眼差しをくれたり、ボクの名を呼んだ。
おねがい、その頷きが本当の想いでありますように、ボクの名を呼ぶのが特別でありますように……


「あっ、ダメ、」

ふと、ひと際大きく声をあげた名前に、身体を引き寄せられて強く抱かれる。
あわせて一番奥を突きあげると、名前の全身がボクをきゅうとしめつける。真っ白な痺れが全身を走り抜けるなか、もう一度だけ腰をうつ。

「名前……」

ボクは名前のお腹の上でびゅくびゅくと熱打った。

名前の上へかぶさったまま、五感がちかちかするのを深呼吸でなおしていく。そんな曖昧な世界で君がボクへと手の平を伸ばすのがわかる。その指先はボクの方頬にやさしくふれた。上気した頬にその感触はひやりと気持ちよくて、ボクの視界をすこしハッキリとさせる。

「ロッド?」

ボクはだんだんと、冷静さを取り戻して行く。
照明にてった名前の面持ちがついにしっかり見えてくる。こんな、心配そうな顔をさせてまで、ボクはなにをムキになったのだろう。

「ごめん、」

ボクはライトの電源を落としに、サイドテーブルの方へ腕をやろうとした。けれど名前のもう片方の手がそれを止めた。

「いいの、ロッドが見えるから」

思いがけない行動にえ、と間抜けに返すボク。頬に添ったままの爪先が優しくボクをなでている。名前はライトの方をちらりと見た後、ボクを熱っぽく見詰め直した。

「あんなにされても気持ちかったの、いっぱい見た、でしょ?」

とぎれとぎれに一生懸命な言葉がボクに伝う。
あんなに。そうだ、嫌がることをたくさんした。自分のことしか考えず大切な君を抱いた。

「名前、ごめん、ボク」

あやまらないで。名前が制す。
続きに何か言いたげな口元を見詰めていると、意を決したように名前の視線がボクへ向く。

「ねぇこれからは、点けてしよっか?」

意外すぎるせりふはボクを耳まで真っ赤にした。
けれど名前はもっともっと、林檎のように赤かった。

「だって、顔が見えた方が、気持ち良いから……」

じん、とほっぺのてのひらが熱を帯びる。
泳いだ目に添う恥ずかしげな言葉はボクの胸にあたたかな気持ちを灯した。
そうか、こんなに素直な君の何を疑ったらいいの。訴えの目、名前を呼ぶ声が思い出され、きゅんと心をにぎりしめる。
本当にごめんね、見えなくなってたよ。ちゃんと想ってくれているって、知ってたはずなのに。君はちゃんとこうして、ボクを見てくれてるのに。ぜんぶ見せてくれてるのに。

頬を包んでいた手の甲をとりそっとキスをすると、照れ臭そうな大好きの言葉が返ってきた。

「また仲良くなれたね」

名前が笑った。
ボクはその笑顔にどうしようもなく胸を充たされて、ドキドキして、再び名前の身体になだれ込んだ。

ドキドキ……これから先にはどんな君を見せてくれるんだろう、どんなボクを見せることになるんだろう。二人の初めてはまだまだこれからなのだろう、のドキドキ。
だけどやっぱりボクはすぐ、男なりに憤ってしまい、まずは大好きないつもの唇にかみついた。そうしたらばいつもの舌や歯が甘くかみつき返して応えてくれる。

馬鹿なボクは、君のこと好きすぎて、不安で不安でカッコつけた強引になっちゃったけど。
これからは君が好きでいてくれることに、ちゃんと自信を持てそうだよ。





fin.

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