ザンス

「井矢見。」
「ん?ああ、ゆいザンスか。」
「久しぶり。また仕事辞めたの?」
「なんでわかったザンス…。」
「頬がこけてる。」

井矢見は私の遠い遠い親戚。かなり遠い。
こっちに来てから何年かぶりに会ったが、彼の特徴的な容姿ですぐに思い出した。

私の両親は井矢見と会わせるのをよく思っていなかったが、その理由は簡単だ。
彼はきちんと仕事に就いているが、それの9割があまり言えないお仕事や完全ブラックな会社だからだ。

「お腹空いたらお家おいで。仕事見つかるまではあげる。」

私は井矢見のことは嫌いではなかった。
名前の通り嫌味を言うこともあるが、無駄な干渉はしないし静かだし。
仕事を辞めてもすぐに仕事を見つけてくるし。

「…両親に怒られるザンスよ。」
「バレなきゃセーフ。」
「何でチミはミーに甘いザンス?」
「うーん…五月蝿くないし面倒くさくないし。」
「チミ相手に無駄絡みしても面白い反応なんて帰ってきやしないザンス。静かになるのも当然ザンス。」
「ふうん。」
「……ちょっと待つザンス。チミの家ここザンスか?」
「そうだけど。」
「…ここ、の隣…。」

井矢見の顔に焦りやら恐怖やら、いろんなネガティブな感情が溢れてくる。

「井矢見もここの六つ子と知り合い?」
「知り合いというか…お邪魔虫というか…。」
「へえ。」

まあいいか、と鍵を開けてドアを開ける。
閉めるよ、と声をかければバタバタと家に駆け込んでくる。

「お茶くらいミーが出すザンス。」
「えーいいよ。井矢見はお皿洗い担当で。」
「わかったザンス。」

素直に頷いてソファに我が物顔で腰掛け、テレビを見たり新聞を読んだり、完全に寛いでいる。

「チミも六つ子ちゃんたちと知り合いザンスか?」
「そうザンス。」
「…真似しなくていいザンス。」
「同じ学校なんだよね。今リーチかかってる。」
「あいつらと関わるとろくなことないザンス。チミも気をつけるザンスよ。」
「ふうん。」

井矢見に紅茶を出し、私もソファに座る。

「買い物行ってくるから待ってて。」
「1人で大丈夫ザンスか?」
「六つ子に会うかもよ。」
「…気をつけるザンス。」

あからさまに嫌そうな顔で足を組み替えた。
2人分の食料なんてそこまで重くないしそんなにか弱くないし。

鼻だけで笑って私は家を出た。
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