さよなら俺だけの天使

「あっれえ?カラ松兄さんじゃーん。」
「お、本当だ。」

後ろからかけられた声に、俺は背筋が凍った。
隣を歩くゆいに、「松野、いいの?」と手の甲で軽く腕を叩かれる。

「おいおいカラ松無視すんなよー?ってかその隣の子のが気になるんだけどね。」

ガッ、と肩を組まれる。
にたにた笑うおそ松兄さんに、俺の嫌な予感は的中した。

「はじめまして。僕は松野トド松。君は?」
「天使ヶ原ゆい。」
「あ!噂の転校生ちゃん!?」
「噂?」
「兄さん、噂ってなんだ?」

眉を顰めたゆいのかわりに、俺が兄さんに質問する。

「偉大な名前に負けてないって有名だぜ?確かにゆいちゃん可愛いねえ。あ、俺松野おそ松。長男。」
「へえ。…本当に顔そっくりだね。」
「だろ?でもよく見るとちょっと違うんだぜ?」

3人を見比べるゆいだが、その違いを理解できても覚える気なんてそうないだろう。

「…ほんとだ。」
「あと3人いるけど、ちゃーんと俺のこと覚えとけよ?」
「……うん。」
「いや絶対覚える気ないよね!?」
「ゆっくりでいいじゃん。これで会うのが最後になるわけじゃないし。ねえ?カラ松兄さん。」
「そう、だな…。」

あまり会ってほしくはないんだが。

そんな心情を見透かしたように笑うトド松。
本当にこの末っ子は厄介だな。

「あ、ごめん忘れ物した。先帰ってて。」
「えー、そんなん明日でよくね?」
「現代文のノートか?」
「うん。明日だよね?」
「明日だな。じゃあ、気をつけて行けよ。」
「3人とも気をつけて帰ってね。また明日。」


「やーっぱ可愛い子の笑顔って最高だよなあ。まじであの子素人?実はアイドルとかじゃなくて?」
「ああ。」
「なんで僕らに黙ってたのさー。独り占めする気だったでしょ!」

ゆいの存在は見つかったが、ゆいが隣の家ということは黙っておこう。
なんとなくそんな気分だ。
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