そんなバナナ
今日も元気に野球しよ〜!
足取り軽く教室を出ると、「松野。」と耳に優しい声で名前を呼ばれた。
俺らを苗字で呼ぶなんて珍しい。
声のした方を見れば、俺の知らない子。
でもすっげー可愛い。
「だれ?あ、誰かと間違えてる?」
いつだったか誰かのことを可愛い可愛いと褒めちぎっていた兄弟の様子を思い出し、もしかしたら兄さんたちの知り合いかもしれないと尋ねてみた。
「五男、だよね。」
あれ?そんなことなかったみたいだ。
「うん。松野十四松!君は?」
「天使ヶ原ゆい。これ、この子から。」
差し出された封筒は薄黄色だ。
ゆいちゃんは細長い白い指で封筒の裏に書かれた名前を指差した。
波多野かおり?
うーん……聞いたことはあるなあ。
あ、ゆいちゃんが首傾げてる。
可愛いなあ。
「…あ、前同じクラスだった子だ!」
パッと思い出して、ゆいちゃんの持つ封筒の中から手紙を抜き取る。
「えーっと、十四松くん久しぶり。」
久しぶり〜。
「ちょ何読んでんのてかこれ自分で持ってよ!」
女の子らしい字で書かれた手紙を読むと、ゆいちゃんが焦って封筒を緩く押し付けてきた。
無理やり握らせないあたり優しいんだろうなあと思いながら次の文を読み上げる。
「なぜ止めない!?」
「十四松くんが好きです。波多野かおり。」
ちら、とゆいちゃんを見ると、呆れや同情の色を含んだ目で手紙を見ていた。
「うーん、ねえねえ。どう断れば傷つかないかなあ?」
「…六男の松野に聞いたら?」
「あ、それいいかも!」
ていうかトド松と知り合いなんだ。
「断るんだ。」
俺の手から手紙をするりと奪い、封筒にしまう。
それを俺の手に優しく握らせながら何も考えていなさそうな声音でぽつりと言われた。
「だって俺、ゆいちゃんのこと好きになっちゃったんだもん。」
「は…?」
驚いてもともと大きい目をさらに見開いた。
俺の後ろをキョロキョロして、ほっと安堵の息をついた。
「じゃあ、ありがとね!バイバーイ!」
ぶんぶんと大きく手を振ったが、振り返してもらえなかった。
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