※上司部下シリーズなのでサブマスにしてますが、ノボリさん1割も出ません。



 仕事が半休だったため、昼頃に帰路についている。天気予報でも言っていたが、今日は例年以上に気温が下がって全国的に雪が積もり、炎ポケモンですら凍えるほどに寒い日らしい。寒さ対策なのか、街を行き交う人々の首元には暖かそうなマフラーが着用されてる様子が頻繁にみられる。かく言うボクもマフラーをぐるぐる巻きにして身に付けている。だって寒いもん。しんしんと降り続ける雪に、寒さが苦手な僕は恨めしさに空を見上げた。曇天模様が広がっていて、なんだか余計に気が滅入ってしまった。
 街中を歩きながら寒さに思考を凍らせていると、ふと視界に見覚えのある姿が映った。ナマエだ。ウィンドウ越しに可愛らしいコートを見ている。そんなナマエの格好が、安っぽそうなダッフルコートに、ネックウォーマー、おまけに手袋もして、さらにニットもかぶっている。おそらく腹巻なんかもしているんじゃないかというくらい完全装備で、ボクはつい笑ってしまった。それがナマエの耳に届いてしまったみたいで、きょろきょろ辺りを見回し始め、ボクの姿を捕らえると、あからさまに嫌そうな顔を浮かべた。

「あぁ…ボス。お疲れ様です」
「お疲れ様、ナマエ。キミは今日非番だっけ?」
「ええ、そうです。ボスは半休でしたよね。お互い良い休日を過ごしましょう。それでは」
「そう行くと思った???」
「ぎゃあああああ」

 早口で捲し立て早々にこの場から去ろうとするナマエの首根っこを引っ付かみ、ずるずると店の中に連れていく。普段の行いが悪すぎるせいか、ある意味その成果でもあるのか、ナマエはボク…、いや、ボク達兄弟はナマエに事あるごとにちょっかいをかけては怒らせている。怒っているナマエの顔と言ったら、思い出しただけで笑っちゃいそうになる。ふふ。あ、笑っちゃった。

「何笑ってんですか…」
「キミの怒った顔を思い出してた」
「んんああああ!?!!?」
「あ、そうそうその顔その顔。ブブーッ!」
「ムカつく!!!」

 隙あらば逃げようとするナマエの手を握る。さすがにお店の中だからね、首根っこつかんでると店員さんに怪しまれちゃうでしょ?ナマエはしかめっ面しながらも、大人しそうについてきている。さて、どれあったかな。ボクは店の中を端から端まで歩く。女性ブランドの服はどれもこれも同じに見えてしまって、よくわからない。ポケモンならわかるんだけどなぁ。なんて言ったら、ポケモンバカだと言われてしまいそうだ。だから言わない。ナマエをからかうのは好きだけど、からかわれるのは好きじゃない。

「あ、」
「どうしたの?」
「いえ、なんでも」

 ナマエの視線はレジ方向に向いている。ボクもそっちを見たら、さっきまでナマエが見ていたコートが買われていくところだった。あーもう、どこにあったんだろう。ナマエを見たら少し悲しそうな顔をしていて、心がきゅう、と切なくなった。本当はね、買ってあげたかったんだ。あのコートはとても暖かそうで、ナマエに似合ってそうなデザインだったから。結局、何をするでもなく店を出た。暖房のきいていた空間から寒空の下に出ると、余計に寒さが身に染みる。

「ねえ、ナマエ」
「はい、なんでしょうかボス」
「寒い?」
「え?ああ、今日は冷えますしね。寒いですね」
「そのネックウォーマーあったかいの?」
「んー…ないよりはましかなぁという具合ですかね」
「だよねぇ」

 手を握ったままナマエを連れて歩く。街中は周りの視線が痛い。まあ、ボク有名人だからね。ナマエは何度か手を振りほどこうとしていたが、ボクはその手を離さなかった。次第にナマエは諦めたのか無抵抗になった。あんまり反抗すると痛い目に合うと身をもって知っているからだろう。
 雪が少し止んできた。しかし突き刺さる痛みのような寒さは変わらない。空は相変わらず曇天で、誰かにほんばれをしてほしいくらいだった。したところですぐにまた雲に覆いつくされてしまうだろうけど。

「このお店入るよ」
「え、あ、はい。なんか買うんですか?」
「お店に入るのに買い物以外で何があるの?バカなの?」
「んんんんん〜〜っっっ……さっき何も買わなかったじゃないですか…」
「さっきはさっき。今は今」
「こんちくしょう」

 店内に入ると、よくボクの服をコーディネートしてくれる店員がいた。ここはボクお気に入りのお店なのだ。ボクは彼と目を合わせると、自分のマフラーを指さし、隣にいるナマエを横目に見た。彼はくみ取ってくれたらしく、にこりと微笑む。

「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくり」
「ここ、カフェも併設してるんだ。コーヒー飲もう。ココアの方がいい?」
「ボスが優しい…?何か裏でもあるのか…?」
「声に出てるよ」
「いででででででででで!!!!!!!!ごめ、ごめんなさい!!!」

何かをほざいたナマエの頭を鷲掴みし、無理やり椅子に座らせた。ナマエは涙目になりながらココアのケーキセットを要求する。この子は結構図太い神経の持ち主だと、こういう時感心する。コーヒー、ココアのケーキセットを注文し、運ばれてきたそれを美味しい美味しいと口に運んでいるナマエを見ていたら、彼女は少し恥ずかしそうに微笑んだ。ああ、うん。かわいいなぁ、と、思った。談笑しつつ軽食を終え、名前を先に店外に出し会計を済ませる。ボクはいつもの店員に近寄り、彼の持っているものを確認した。

「そうそう!これ、ボクが求めていたものだよ」
「お支払いは、後日で構いませんので」
「へへ、ありがとう!」

 店員がぱちりとウィンクしてきた。ボクもウィンクし返す。店外に出ると、ナマエは寒そうにしながらボクを待っていたので、その首にマフラーをぐるぐる巻きにしてあげた。

「ん?へ?」
「キミのその安っぽいネックウォーマーより遥かにあったかいでしょ?」
「え?確かに暖かいですけどね、え?何ですか?」
「あげる!」
「へ!?」
「お互い、良い休日になった?」
「え?…ああ、はい。意外と楽しかったです」

 マフラーをつかみ口元を隠しながら、隠しきれていない笑みを浮かべていた。いつの間にか、なんだかぽかぽか暖かい気持ちになった。



上司(片方)と休みの日
(なぜナマエとクダリが色違いのマフラーを着用しているのですか!!!!)
(へへーん、早い者勝ち!!


リゼ