「名前ちんなんてだいきらい。消えちゃえばいいのに」

学校の帰り道、なぜか私の隣を歩く紫原に、何を思ってるのかわからない目で見下され、蔑すまれる。いつものことだ。いつからかは忘れけど。
いつもの私はここで反発する。時にはつかみ合いの喧嘩だってする。いつだって彼から喧嘩を売られて買って、負けて怪我して泣くのはいつも私。悔しかった。だって私は彼のことが嫌いではなかったからだ。かといって好きかと言われたらそうでもないけど。そうでもないけど。

でもそれも今日でお終いにしようと思う。自分が嫌いではないからって、相手が私のことが嫌いなのだ。それを受け入れたくなくて、反発して、傷ついて。もしかしたら私も彼を傷つけていたのかもしれない。ということにふと気が付いたのだ。本当に、ふと。だから私は今日は反発しない。喧嘩までもっていかない。それが現状の最善策であるだろうと私なりに考えた結果だ。

「うんわかった」

私はにっこり笑っていった。すると彼は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をし「え?」と聞き返してきた。だから私はもう一度「そうするね」と言った。すると紫原は途端にくしゃりと顔を歪め、小さい声でぼそぼそと何かを言ったが、小さすぎて私には聞き取れなかった。でもどうせ、私への誹謗中傷の言葉であろう。そう思うことにし、私は彼よりも早めに歩く。少しでも彼の視界から外れるようにするためだ。

「待って、名前ちん」

掠れるような声で呼ばれ、後ろを振り返ようとした。その時。
ドンっと大きな音と、強い痛みが体に走った。視界が真っ赤に染まっていく。なんだこれ、と思って触ってみるとねっとりと粘着性のある赤い液体だった。あ、これ私の血か。そう認識するまで時間はかからなかった。

「名前ちん!!!!」

紫原の叫ぶ声が聞こえた。何?と返事をしようとしたが、喉から出るのはひゅーひゅーといった気管支から漏れる空気だけで、声にはならなかった。

「ごめん、ごめんね名前ちん」

横たわる私を見下げ、大粒の涙を流し謝罪の言葉を繰り返す彼に私は何も言えず、力を振り絞って口角を上げた。

紫原の顔は絶望色に染まっていった。



素直になれないのは
(きっと、二人ともだったんだ)


リゼ