わたくしはナマエ様を心の底からお慕いしております。初めて勝負をしたあの日、あの瞬間から。そこいらのナマエ様の関係者よりはるかに、そして段違いにナマエ様を深く深く愛している自信がございます。

ナマエ様は飛びぬけたバトルセンスの持ち主…という訳でも、格段に美しい容姿の持ち主という訳ではございません。ですが、あの方の輝く笑顔、ポケモンを思いやる優しき心、慈しみに溢れた眼差し。それらがわたくしを魅了してやまないのです。



「ナマエ様」

「え?ああ、ノボリさん。こんにちは」

本日もナマエ様はバトルサブウェイにはご乗車ならさず、カナワタウン行きの電車のホームに立っておりました。

「いつから此処に居られたのですか?」

「分かりません、時計を見て居なかったので」

ナマエ様は苦笑交じりに答えました。ホームはわたくしとナマエ様以外誰もおらず、シーンと静まり返っております。静寂に包まれる、とはこのような状況の事を言うのでしょうか。物音一つしないホームでは、一つ一つの音が大きく反響致します。わたくしがナマエ様に歩み寄る足音でさえ、音高く反響しました。

「ナマエ様、」

「綺麗な花ですよね。これ」

大きな大きな花束を抱え、ナマエ様は香りを楽しむように瞼を閉じます。その動作に、わたくしは目を奪われました。ああ何て、何て美しく慈愛に満ちたお方なのでしょう!わたくしはもう愛おしいという気持ちが暴走して気が狂いそうです。

ですがその昂りを無理やり抑え込み、わたくしは平常心平常心と自分自身に言い聞かせました。

「とても、暖かい香りが致します」

「暖かい…そうですね。とても、暖かな香りです」

薄ら細目を開け、ナマエ様は何かを含むようにゆっくりと頷かれました。

「ナマエ様、貴方様は、もういかれてしまうのですか?」

「そうですねぇ、ではもう少しだけ、此処に居ても良いですか?」

「構いません。では、わたくしも暫くナマエ様とともに此処に留まりましょう」

「あら?お仕事はいいのですか?」

「暫くは大丈夫でしょう。お気になさらないでくださいまし」

「おや、サボリさんですね?うふふ、じゃあお言葉に甘えて気にしません」

ナマエ様は朗らかに笑いました。何故か少し羞恥がわき上がり、ナマエ様から一瞬目を離しました。

「ねえ、ノボリさん。笑ってみてくださいよ」

「わ、笑う?何故でございますか?」

「好奇心ですかね」

「…え、っと。このような…感じで…ございましょうか…?」

「ぷっ!あははは!確かに、確かに笑顔ですね!」

笑ってほしいと言うので、わたくしは自身の手を使い、無理やり表情筋をつり上げさせました。

ナマエ様は、そんなわたくしの様子が面白かったのでしょう、声こそ余りだしませんが、肩を揺らすなど、全身で笑いをあらわしており隠せておりません。

「ああすみません。笑ってしまいました。気分を害されましたよね、ごめんなさい」

「いえ、貴方様にならわたくしは何をされても構いません」

「あはは!なんですかそれー」

本気なのですが。告白のつもりだったのですが。

ですが残念ながらナマエ様には伝わらなかったようです。

その時、自身の制服のポケットに、ナマエ様へ渡す予定であったものが入って居るのを思い出し、それを取り出し顔を上げた、その時には。

「ナマエさ、ま」

其処には、大きな大きな花束のみが置かれており、ナマエ様の姿は見えません。

「どうし、て」

花束を拾い上げ、沢山の花束の置かれている一角へ置きました。その真ん中には、ナマエ様の大好きだった菓子の類などが置かれております。

「貴方様は、大事なことは言わせてくれないのですね」

"ごめんなさい。ノボリさん"

「ナマエさ、ま?」

脳に響くような声。震える喉を奮いあがらせ、無理やり声を絞り出しました。

声が出ると同時に、涙もあふれ出ました。

その涙を、誰かが拭ってくれているような、ナマエ様が拭って下さっているような、そんな気がいたします。

「わたくしも、貴方様と、ナマエ様、」

ですが、もう声は聞こえませんでした。





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※補足です。ナマエ様は告白されてしまうと成仏が出来なくなるので逃げました。何故ノボリの前に現れたと言うと、ノボリがナマエ様がお亡くなりになられている事を認めようとしないので、ちゃんと現実を見てほしいと言う願いのもとでした。
補足が無いと何も分からないと言うね!

22222HITぴー様へ捧げます!キリリク有り難うございました!
ポケキャラで切ないとのことでしたので、勝手ながらノボリさんにさせていただきました。
Q,うわああこんなの希望してたのと違う!A,はい、書き直します。
お持ち帰りはぴー様のみとさせていただきます。







↓没バージョンでしかも途中までですがよろしかったら。これは流石に酷いなぁと思ったので。


「笑う?何故でございますか?」

「いいから、早く」

「こうでございますか?」

「…」

ナマエ様は何かを見破るように私を睨みつけます。何か粗相をいたしてしまったのでしょうか?

「貴方、やっぱり」

「どうか致しましたか?」

「どうかしてるのは貴方です!クダリさん!」

ああ、ばれちゃった。

ボクはにっこり笑ってナマエに歩み寄るけど、ナマエはボクの動きに比例するように後ずさりしていく。青ざめているナマエの顔も、すごくすっごく可愛いな!

「ノボリさんを返してよ!何で、何でなの!?」

「だってキミがノボリノボリの事ばかりでボクのこと全然見てくれないから」

「そん、な」

はい終わりです。元々↑のお話を考えていたのですが、こういうのはどうだろうと書いていたところ切ない系を希望されていたのに方向性を間違え(ヤンデレに突入してた)ている事に気が付きやめました。えへへ。



リゼ