クダリに恋人を紹介したいから来てと手を引かれ、ノボリは久々にクダリの住む部屋に入室した。ノボリとクダリは、成人になってからは互いに一人暮らしをしている。
久々に入室したクダリ宅のリビング。ノボリと真逆の白を基調とした部屋に、ポツポツとピンクや黄色の小物が置かれ、白に良く映えていた。それに、掃除が苦手なはずのクダリだが、部屋はどこも整理整頓されており、窓の桟には埃一つない。
これらの視覚により得た情報から、クダリは恋人と同棲しているのだと言う事が確定された。部屋に連れてこられた時点で、多少は予測していたのだが。
「それで、恋人はどこに居るのですか?」
だが、肝心の恋人らしき人物は見えない。コートと帽子を脱ぎ棄てているクダリにノボリは聞いた。
「ちょ、ちょっと待って」
クダリはネクタイをほどき、ワイシャツのボタンを幾つか外して軽装となる。というか、だらしの無い恰好だ。
あのコートは後で皴になるだろうなとノボリは思ったが、放っておいた。
「待って待って今呼んでくる!」
クダリはそう言うと、ある部屋に入って行った。
ノボリは大人しくリビングのソファに腰掛けていると、何故かクダリの向かった部屋の中からかちゃかちゃと金属の擦れる音がした。何をしているのだろうかと疑問に思いながらも大人しく待つ。そして数分後、ガチャリと音を立てドアの開く音がした。
「随分時間が掛かりまし…え?」
ドアの方向へ目線を向けながら声を発していると、"掛かりましたね"の言葉は視覚の捉えた光景が余りにも衝撃的で、言いきる前に疑問符が浮かんでしまった。
其処に立っていたのは、数ヶ月前に行方不明となった、ノボリの片思いの相手であるナマエだったのだ。
太陽に焼けた肌は白に変わり、服装も軽快なものから白い御淑やかなワンピースを身に纏っていた。
だが、問題なのはそこではない。問題は、ナマエの首と足首にくっきりと表れている、赤い跡だった。
「クダリ、どういう事なのです。説明してくださいまし」
「ボクの恋人!」
キュっとノボリの目の前でナマエを抱きしめ、幸せそうにクダリは笑う。一見、天使のような笑みだが、ノボリには悪魔が微笑んでいるようにしか見えなかった。
「ナマエ様。クダリの仰っている内容は、事実でございますか?」
「…」
ナマエに問う。ナマエは何も言わず、ちらりとクダリを見た。クダリはにっこり笑って「いいよ」と言う。その言葉を聞いて、そこで漸くナマエは口を開いた。
「事実です」
小さな、少し掠れた高い声がノボリの耳に届く。
「ナマエ、お茶淹れてきて」
「分かった」
ナマエ何か言う前に、クダリがナマエに声をかけ、ナマエは急ぎ足でキッチンへと向かって行った。
場には、クダリとノボリの2人だけとなる。ノボリはクダリに詰め寄った。
「どういう、事なのですか」
「?何が?」
「…ナマエ様の、あの赤痣の事でございます!!」
白い肌を浸食し、均一の太さの赤線が足首を囲むように浮かび上がっていた。そして首には、明らかに。
「あの首の痣は、どう見ても人の手で絞められて出来たものです!」
勢い余ってクダリの胸倉を掴みかかる。クダリは焦り声で弁解の言葉を述べ始めた。
「だ、だって、ボク、えっちするときああしないと興奮しない!ナマエもそれ分かってる!痛い痛いノボリ離して!!」
痛い!というクダリの悲鳴を聞き、そこで初めてクダリの顔が本気で青ざめている事に気が付き、掴んでいた手を離した。
ゲホゲホと咳き込み、クダリはその場で膝をつく。
「わぁっ。クダリくん、大丈夫?」
「う、うん」
茶とカップを乗せたお盆を持ったナマエが、いつの間にかノボリの背後に居た。
何時の間に、とノボリは驚いたが、すぐに気を持ち直しお盆を受け取ろうと手を伸ばす。だが、ナマエは困ったように眉を下げてクダリを見た。
クダリは漸く咳が止まったようで、ちょうど立ち上がろうとしているところだった。
「クダリくん」
「げほげほっ。ん、ありがとナマエ。ボクが受け取る」
ナマエはノボリの横を通り過ぎ、クダリのもとへ歩み寄った。
ノボリはやり場の無くなった腕をじっと見て、そしてそっと降ろす。
クダリは片手でお盆を持ち、もう一方の手でナマエの頭を撫でた。その時のナマエの表情が余りにも衝撃的で、ノボリは思わず目を逸らした。
「それで、何故急にわたくしに恋人の紹介を?」
ナマエの淹れた紅茶を啜りながら、向かいのソファにナマエと隣り合わせで座って居るクダリを見る。クダリは右手にティーカップを持ち、左手はナマエの右手を握って居た。
「あのね?驚かないで聞いてほしい」
かちゃんと音を立て、ティーカップを机に置き、空いた右手でナマエの腹部をゆっくりと撫でた。ノボリの中にまさか。の考えが浮かぶ。
「ナマエのお腹の中に、ボクとの子供が出来た」
ああ、まさかの予想が当たってしまった。ノボリは突然突きつけられた現実に目眩がした。
そんなノボリの心境など露知らず、ボク等みたいに双子なんだよ。と嬉しそうにクダリは続けた。
ノボリはちらりとナマエを見ると、慈愛に満ちた眼差しで、ナマエも愛おしそうに自分の子の居る腹部を撫でていた。
「(…これもこれで、一つの愛の形、なのかもしれませんね)」
何もかもを飲み込むように、ノボリは残った紅茶を一気に飲みほした。
そうして全て、置いて行く
(「ナマエ様。最後に一つだけ、よろしいですか?」)
(「いいよ、ナマエ」)
(「はい、どうぞ」)
(「貴方様は今、幸せでございますか?」)
その問いにナマエは、クダリの様にニコッと笑って頷いたのだった。
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初めに言います。ごめんなさいいい!サブマス夢か、これ?って出来になってしまいました!
いやあの、ブログにくらいお話好きだって書いてあった気がして書いたらそれはにょきさんがどんなジャンルを書くのが好きかでしたうわああああ。勘違い乙りました。
うう、こんなんですみません。訳わかんない部分が多分あると思いますすみませええん!!!