こんにちは、はじめまして[鮫・水](ぎざぎざ。コバトさまより)

どこからともなく聞こえる、これは赤ん坊の泣き声?

私はがさがさと茂みを掻き分け声のする方へと用心深く進む。

治安の悪いこの里では子供を囮にした犯罪も日常茶飯事。

それと同時に、我が子の将来を悲観した親が生まれたばかりの赤ん坊を置き去りにすることもしばしば。

声が近くなるにつれ、私は背の刀に手を掛けつつさらに用心深く歩を進める。

そして・・・川の畔、大きく開けたその場所に赤ん坊の入った乳母車はあった。

ふにゃあふにゃあ、とまるで猫のような泣き声。

しかし、辺りに人影はなく忌々しいチャクラも感じない。

「捨て子、ですかね」

私は刀を鞘に収めるとどれ、とばかりに乳母車に近づいた。

女児であれば高く売れる、だが小さな手足を懸命に動かし顔を真っ赤にして泣いている赤ん坊は・・・男児だった。

「・・・」

さて、どうしたものか。

私はもう一度辺りを見渡した。

しかし、いくら見渡しても親らしき人物はいない。

乳母車のなかの赤ん坊は更に激しく泣きはじめ

「参りましたねぇ、お腹でも空いているのでしょうか」

ぽつり、洩らした私の声に反応し一瞬だけだが泣き声を弱めた。

「・・・」

このまま泣き続けられていてはいずれ誰かが嗅ぎつけ、そして己の快楽のためだけにこの赤ん坊の命を弄ぶであろう。

無抵抗な、生まれて幾月しか過ぎていない小さな命を。

私は

「よ、よしよし」

躊躇いがちにそう声を掛けると、乳母車を優しく揺すった。

正直、自分でも驚いている。

平気で仲間を裏切り、手を血で赤く染めることを何とも思わないこんな私が見ず知らずの赤ん坊を前に生き物としての当然な感情を抱いていることに。

「・・・」

私は複雑な気持ちで目の前の赤ん坊を見つめた。

途端、ぴたりと泣き止み紫色の瞳をぱちくりさせながら私をじっと見つめる赤ん坊。

「うー」

「・・・」

「あー、うー」

「・・・」

「うー、うー」

「・・・」

ホッとしたのも束の間、今度はどうしたらよいのか。

「あきゃあ、きゃーう」

「・・・」

そんなに、私の顔が面白いですか?

なんて、私の顔を見ながらキャッキャと笑う赤ん坊に少しへこんでみる。

そして、いつのまにか握られた人差し指を

「ずいぶんと小さな手ですねぇ」

可愛い、と思ったり。

ぷに、柔らかなほっぺを恐る恐るつついて

さら、柔らかな髪をそっと撫でる。

「うっくー、きゃあ」

「はいはい、そうですか」

「あうー、うー」

「なんですか、ん?」

端から見たら気色悪い光景だろう、霧隠れの怪人と恐れられているこんな私が目尻を下げ口元をだらしなく歪めながら赤ん坊相手にデレデレと。

そして

「抱っこ、してあげましょうかね」

私の両手は自然と赤ん坊の両脇へと伸びた。

が、抱き上げようとした瞬間

「ウチの子に、何するのっ」

きゃー、耳をつんざくような悲鳴。

はっ、と振り返れば地面にへたり込んで私以上に青ざめた顔の女の姿。

たぶん、この赤ん坊の母親であろう。

足元に落とした籠から薬草が散らばる。

そうか、この子は捨てられたのではなく少しの間この場に置かれていたのだ。

たぶん、眠っていたか何かだろう。

その隙に薬草を摘んで・・・でも目を覚ました赤ん坊は母親の不在に気付き泣き出しそこに私が遭遇した、というわけだ。

「あ、いや・・・あの」

じりじりと後退りをしつつとりあえず言い訳を、と思ったが何を言っても無駄。

震える手で私にクナイを向ける母親は子供を守らなければといった本能だけで動いている故、今はたぶん私よりも強い。

親とは、そういうものだ。

私は赤ん坊の頬をツツッ、ひと撫でして

”この里で生き残りたいのなら・・・強く、なりなさい”

そう言い残し、瞬身で姿を消した。

―・・・

「だからね、あの時の大男は実は先輩で大名暗殺とかすごい犯罪名ついちゃってるけど初犯名は幼児誘拐殺人未遂なんだよ」

「・・・」

こんな偶然、あるのだろうか。
まさかあの時の赤ん坊が水月だったとはねぇ。

「んでもって、お腹を空かせてると勘違いした先輩はまだ歯も生えていないボクの口に自分の指突っ込んでほーらおさかなソーセージですよーってしたんでしょ?」

「し・・・してませんよ、そんな事っ」

まったく。

でもまあいい・・・強くなりなさい、との私の願いは届いたようですから。

「水月」

「うん?」

”ずいぶんと大きくなりました、ねぇ”

なんて、目を細めて笑う私を水月は訝しげに見つめた。


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