感情論(佐幸)
 2016.03.25 Fri 04:31

『気まぐれフリリク』にて頂いたリクエスト『佐幸で戦国』の消化作品です。
リクエストして下さった本人様のみ、お持ち帰り可能です。
(その際には、一言ご連絡をお願い致します。)

以下、注意事項

・佐助×幸村
・佐助視点
・佐助攻め処女作ですので、色々拙いかと思います
・受けてはいないから攻めているはず…!

以上のことにご理解いただけましたら、本文へとお進みください。














『感情論(佐幸ver)』





精神面の未熟さだろうか。彼は見ていてなんだか危なっかしい。
腕っ節に間違いはなく、勇ましくふるわれる二槍は、時に舞っているかのような流麗さを見せた。
槍の軌道は紅い残像として視界の端に映り込む。いつでも、どこでも、この視界から消えることはない。
(親心ってやつかねぇ…。)
目が離せないのは、心配しているからだと思っていた。
まさか色恋沙汰に由来するものだなんて、その時は夢にも思っていなかったのだ。

(あっちゃ〜…参ったね。)
自分の感情に気付いた時の第一声は、それだった。
まさかこの俺様が、主様に惚れるだなんて。これじゃあかすがのことをからかえやしない。(流石にあいつほど陶酔も心酔もしてはいないが、結局は同じ穴の狢だ。)
全ては俺様の勘違い。好いているのは、主として。武将として。そう思い込もうとしたが、駄目だった。感情を押し殺すのは得意なはずなのに、どうにもうまく操れない。
好きだって感情は、なんだってこんなにも厄介なのか。
そりゃ掟で禁止もされるわ。なんて、知りたくもなかったことを実感した。

好きだからと言って、別段、旦那とどうこうなりたい訳ではない。
旦那は立派な武士で、俺様はただの忍び。成就を願うのが馬鹿らしくなるくらい、身分の差は歴然だ。忍びとして側にいられるだけでも有難く、これ以上の進展を願うのは贅沢ってもんだ。
旦那の下で働いて、お館様のご上洛をお手伝いして。それが叶った暁には、旦那に似合いの可愛いお嫁さんを見繕ったりなんかもしちゃって。
それでいつか生まれた世継ぎのお世話でも出来たら、俺様の人生上々だ。
(男の子だったら嬉しいな。)
勿論女の子でも嬉しいし、性別なんて関係なく可愛がるけど。『弁丸さま』、すごく可愛かったんだよね。
旦那によく似た子供を想像して、口元が緩むのが分かる。
俺様、どんだけ旦那のことを好いてんのさ?
これでよく、親心などと錯覚できたものだ。

一度気が付くと、恋心ってのはいやに持て余す。
胸が高鳴ったり、体が熱くなったり、どうもよろしくない。しかもそれが、起床の時、食事の時、槍を握っている時、甘味を頬張っている時、…。そんななんてことない、日常のふとした瞬間で起こったりするのだから、全くもってたちが悪い。
「大将に殴られりゃ、恋慕の情も吹っ飛ぶかねぇ。」
…アホらし。
自分の呟きに自分で呆れて、思わずため息を漏らした。
門を見下ろせる屋根の上で、警備がてら敷地内に視線を巡らせる。…己の両眼が、不審人物ではなく真田の旦那を追っているのに気が付いて、流石にうんざりした。
これは一遍、きっちりと片を付けた方が良さそうだ。

思いを告げて、玉砕する。
そうすれば、もうこんなモヤモヤした気持ちを抱えることはないだろう。
元は持ち合わせていなかった感情だ。一度砕けちまえば、簡単に捨てられる。
俺なんぞに言い寄られる旦那には少々申し訳ない気もするが、これが終われば今以上に仕事に身が入るのだから、広〜い意義で考えれば、全ては『武田ため』と言えるだろう。
(って言えば、旦那も許してくれるでしょ。)
そうと決まれば、あとは頃合いを見て告げるだけ。二人きりになる場面は普段からそう珍しくないので、別段策を要することはなさそうだ。
焦らず、その時を待てばいい。
(せめてそれまでの間くらい、恋心って奴を堪能しときますか。)
貴重な経験であることに、間違いはないのだから。

「ちょっとちょっと。片っ端からそう壊されちゃ困るって!」
機会は早々に。翌日の午前に訪れた。
道場の裏手から聞こえる破壊音に、何事かと顔を覗かせた時だった。
「佐助!良い所に来た。鍛錬に付き合ってくれぬか?」
「はいはい。不肖ながら、お相手させて頂きますよっと。」
足元には、人型の巻藁に甲冑や防具をまとわせたものが、もはやゴミ同然となって転がっている。鍛錬用にと作られたものではあるが、こう一人で何体も壊されてはたまらない。
あまり乗り気ではないが、武田の懐事情を思うに、自分が巻藁の代わりになるのが得策だろう。
見回した辺りに人影はなく、道場も無人のようだった。
(こりゃ、さっさとフラれてしっかり働けって、お天道様が言ってるのかもね。)
「なぁ、旦那。始める前に一ついいか?」
「なんだ?遠慮なく申せ。」
「うん、じゃあ遠慮なく。」

「あんたが好きだよ。幸村様。」
さらり、と。澱みなく流れ出た言葉に、旦那はきょとんとしていた。
唐突である自覚はあったが、耳には届いたが頭には入っていない、といった様相に、思わず笑みが漏れる。
距離を詰めて、自分よりほんの少し低い位置にある頭を撫でた。大きな瞳が手の動きを追って、そして俺様を見上げてくる。
これなら、ちゃんと伝わるだろう。
「恋い焦がれ、お慕い申しております。」
さぁ、遠慮なくふってくれ。
身分違いの忍びからの、礼儀も作法も雰囲気も無視した告白だ。俺様が気持ちにケリをつけたいがための、自分勝手な行動。あんたが気に病むことは何もない。
なのに。
旦那は口をぽかんと開けたまま、一気に顔を真っ赤に染めた。泳いだ視線は一点に定まらず、結局、顔ごと下を向いてしまう。
嫌悪や、ただの驚きや照れから来る行動ではないことは、すぐにわかった。
けれど、この反応はちょっと。
予想していたのと違いすぎる。

うそ。待って。ちょっと待って。
俺様、ふられる心構えしか出来てない。

今更になって、心臓がバクバクとやかましい。
顔も熱いし、きっと、旦那に負けず劣らず赤くなっているに違いない。
向かい合った二人が、どちらも顔を真っ赤にして狼狽えている…なんて、なんと間抜けな図だろうか。格好悪いことこの上ない。
落ち着け、落ち着け、と胸中で呪文のように繰り返しながら、小さく息を吐き出した。
「そ、某は!」
突然の大声に意識を旦那に戻せば、彼は両の拳を強く握り、こちらを見据えていた。色恋沙汰は苦手なはずなのに、顔を真っ赤にしながらも、視線はしっかりと真正面からぶつかってくる。
いかにも旦那らしい真面目さが、好ましいし、可愛らしい。
自然と、顔には笑みが浮かぶ。うん、と頷いて言葉の続きを待てば、旦那は酸欠の金魚のように口をはくはくと動かした。
なんでそこでまた照れるかなぁ。うっかり、こっちにも伝染していまいそうだ。
実際、落ち着きを取り戻していた鼓動は、再び高鳴り始めている。
らしくもなく、緊張などしている自分を笑う余裕すらない。

「某も、佐助が好きだっ!」
うん、ありがとう。
バクバク、ドキドキとうるさい心臓の音は、自分の胸元で二人分響いている。
いつの間にか、旦那を抱きしめ、腕の中に閉じ込めていた。
なにか言わなくちゃ、と思うのに、言うべき言葉が見つからない。ただ無言でぎゅうぎゅうと抱きしめ続けていると、おずおずと、自分の背中に腕が回った。
それだけでこんなに幸せなんだから、恋ってやつは恐ろしい。

「好きだよ。旦那。」
もう一度繰り返した告白に、旦那の顔が持ち上がる。
(あ、これは。)
思った時には、もう、自分の唇を押し当てていた。





END



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