君に夢中(官佐)
 2015.03.22 Sun 02:48

・官兵衛×佐助
・官兵衛→(←)佐助
・現代パロ
・手枷のない官兵衛さん
・設定の詳細はありませんので、色々と足りない部分は各々脳内補完をお願いします

以上のことにご理解いただけましたら、本文へとお進み下さい。














『君に夢中』





「お!」
背後から聞こえた声に、ぎくりと身体が強張った。
嫌だ、振り向きたくない。そうだ、このまま気付かないフリをして逃げてしまおう。
足のペースを速めようとした、その瞬間。背後から痛いほどに腕をつかまれ、足が止まった。
「小生の声、聞こえてただろ?」
振り返ると、そこには想像した通りの顔があった。
「…あんた、そんなに足速かったけ?」
引きつった笑顔で問いかけると、「愛の力だ」なんてバカげた答えが返ってきた。あぁもう、誰かこいつのこと捕まえてくんないかなぁ。毛利でも大谷でもいいからさ!
これからどこへ行くんだ、暇なのか、よければどこか店へ入らないか。そんな言葉を矢継ぎ早に投げてきた男は、既に俺様を引きずりながら歩き始めている。力で勝てないことはよく解かっているので、抵抗することは早々に諦めた。
「まさかこんなところで会えるとは…いよいよ小生にもツキが回って来たか!?」
あまりに明け透けに寄せられる好意に、痛む頭を抱えたくなる。
なんで、よりにもよって俺様なんだ!
「あんた、相当趣味悪いよね…。」
「ん?そうか?そうかもな!」
あ、なにそれ超失礼。そーゆーデリカシーのないところも、俺様がこいつを嫌う一因だ。
(自分から言ったくせに、なんて苦情は受け付けない。同じ言葉でも、誰に言われたかで受け取り方は違うのだ。)
鼻歌を歌いながら前を行く穴熊男は、俺様の不機嫌なんてなんのその。むしろ気付いてもいないんじゃないか?って疑いたくなるくらいのご機嫌っぷり。
あーあ、もう、溜息しか出やしない。
ツイてない、と項垂れている内に、気が付けば、見知らぬカフェの前に立っていた。
手動のドアを押し開けた穴熊は、そのままエスコートをするように俺様の手を引いて導いた。思いの外、…それこそ意外な程にスマートな動作だ。
俺様女の子じゃないから、そんなんでときめいたりはしないけど。
「…で。勝手に連れ込んだってことは、アンタの奢りでいーんだよな?」
四人席に向かい合う形で座らされ、もう思いっきり散財させてやらねば気が晴れない。
だというのに。てっきり「何故じゃー!」と叫ぶと思われた穴熊は、予想に反して大人しかった。どころか、「なんでも頼め。」とニッと不敵な笑みを浮かべたのである。メニューまで手渡してきた。
え、なに、ほんとにいーの?
っていうか、その余裕に溢れた態度なんかムカツク。
「バイト代が入ったばかりだからな。遠慮はいらんぞ!」
なるほど、そういうこと。
相手を困らせたかった俺様としては、正直おもしろくない。第一、遠慮だって最初からする気は無かった。
こちとら拉致されたも同然で連れて来られたのだから、目の前の男にも、少しくらいはイタイ目を見てもらいたいものだ。
「…ま、一応礼は言っとくよ。ありがと。」
食べ物に恨みは無い。受け取ったメニューに目を走らせ、高くて美味しそうなものをそこに探す。
とはいえ、ここはごく普通のカフェだ。飲み物の他に並ぶメニューは、軽食とスイーツ。値段が高いもの、といったところで、たかがしれている。苦汁を飲ませるのは難しいだろう。
一食分の食費が浮いてラッキーだったと、そう思うことにしよう。

空腹が満たされると、気が抜けるのは何故だろう。
軽食、というには豪勢な具材が挟まったサンドイッチとデザートのタルトを完食して、一息。コーヒーをすすりながらぼんやりしていると、目の前の穴熊のことなどどうでもよく思えてくる。
このまま帰れないかなー。
「なぁ、猿飛。」
あ、無理っぽい。
返事をするのも億劫で、視線だけを相手に向けた。
「この後、時間あるか?」
「ない。」
即答すれば、呆れたような顔で笑われた。楽しそうなのがまた癪に障る。
この男といるのは、嫌いなんだ。
イライラするはずなのに、毒気を抜かれる。俺が、俺じゃなくなる気がする。
今だってほら、心臓がいつもよりうるさくてたまらない。
「あと一押し、だと思うんだがなぁ。」
「勝手なこと言わないでよ。」
音を立ててコーヒーを飲み干すと、穴熊はテーブルの上に身を乗り出してきた。
カップを置くと同時に自然な動作で手を握られて、思わず眉間にしわが寄る。お触り厳禁ですよー。セクハラはやめて下さーい。
遠慮は無用と判断して、テーブルの下、無防備なすねをブーツの先で思いっきり蹴り上げた。
カエルの潰れたような声が聞こえ、パッと手が解放される。俺様は素早く荷物を手に取ると、そのままひらりと出入り口へ向かった。
ドアの前で一度だけ振り向いて、痛みで涙目になっているのを確認する。
いー気味だ!
晴れ晴れとした気持ちでドアを潜り抜け、足取りも軽く走り出す。貴重な休日、潰されてなるものか!

「くっそ…猿飛め!」
まんまと逃げられた。飯を奢ってやったってのに、あんな容赦なく蹴ることはないだろォ!?
いまだ痛むすねをさすりながら、肩を落として溜息をつく。
反応からしてけして脈なしだとは思わないが、ちょっと、挫けそうになる。あいつのことは好きだし、逃げる獲物を追うのも楽しい。けれど、流石にこれでは…。
「…ん?」
突如震えた携帯電話に、思考の渦は断ち切られる。この振動パターンはメールだ。ポケットから取り出して確認すれば、送信者には猿飛の名前が表示されていた。
どうせまた可愛くない言葉が並んでいるのだろう。あの別れ際から察するに、ヘンタイかチカンかエロオヤジか、…とにかくそんなのだ。
『ごめん、言い忘れた。ごちそう様でした。』
だから、まさか、こんな内容だとは思いもしなかった。
予想外な内容に、へなへなと体の力が抜ける。机にだらしなく突っ伏して、次いで、何故だか笑いが込み上げて来た。
こんな可愛いヤツ、手に入れないまま諦められる訳がない。
「覚悟しておけ。」
本気になった小生は、それはもう凄いんだからな!





END




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