2.猫を知る

猫を拾った翌日は、幸いにも仕事は休みだった。
朝一番の時間で医者へ連れて行き、健康診断と、育て方のアドバイスをもらう。
猫は体は小さいものの、もう一人で排泄も出来るし、食べ物も市販の子猫用缶詰で大丈夫とのことだった。
てっきりもっと幼いものだと思っていたが、どうやら、小さいのは元々の体型らしい。
「色はロシアンブルーのようだけど、顔つきや体型から考えるに、オリエンタルロングヘアが近いかな。」
まぁ雑種だろうけどね、と獣医は笑ったが、立花はロシアンブルーもオリエンタルなんたらも全く解らない。曖昧に笑ってその場をしのぎ、あとで検索してみようとメモに残した。


「『オリエンタルロングヘア』…ふむ、なるほど。」
帰宅後、早速検索エンジンのお世話になる。
逆三角形の顔、大きい耳、細い体、寒がりで運動量が豊富。…確かに、この子との共通項目は多いようだ。
ついでに調べた『ロシアンブルー』は、顔つきも性格もまるで似ておらず、『ロシアンスマイル』と言われる口角の釣りあがりも全く見受けられない。
唯一の共通点は、色鮮やかなブルーの毛色。己の目には『ダークグレイ』としか思えない色なのだが、猫の世界では『ブルー』と言われるらしい。…なんとも奇妙な話である。

パソコンの前で一人唸っていると、膝の上にいた猫がニィと短く鳴いた。
視線を落とせば、アーモンド型の大きなダークブルーの瞳と目が合った。首を傾げて見上げてくるその仕草が可愛らしく、ついつい顔が綻んでしまう。
ちょっと目つきの悪い顔も、とても愛らしいのだ。
「お腹でも空きましたか?」
問いながら咽元をくすぐれば、猫は満足そうに目を閉じて再び眠りに付いた。流石に、まだ意思の疎通は難しい。
(ま、なんとかなるさ。)

一つ屋根の下で暮らすのだから、ほとんどのことは時間が解決してくれるだろう。
さしあたり、今早急に必要なのは

「貴殿の名前、ですな。」

そもそも、なぜこんなにも猫について調べているかというと、名付けに頭を悩ましているからに他ならない。
『名は体を表す』。名前はその子の人生を左右させる、大切なもの。それが立花の考えだった。
「手前が必ずや、貴方に立派な名前をお付けしましょう!」
そう息巻いたはいいが、中々いい名前は浮かばない。

なんと名付けたらいいものか。とにかく色々な情報を得て、そのうえで決めようとは考えていた。
遊びに来た親戚の子供には、なにやら奇妙奇天烈な名前で呼ばれてしまったが、それはどうにも自分の好みではない。
出来れば、和風の、落ち着いた名前。呼びやすく、覚えやすく、男らしい名前。(言い忘れていたが、猫は雄だった。)
「さて、どうしたものか…。」
膝でまるまる猫を見て、立花はますます頭を悩ませた。

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