「……」
「よう」
「なにしてんの、こんなところで」
「ナンパ?」
間髪入れずに応えた高校男子の頭を持っていたセカンドバッグでバシンと1発。なおもニシシと笑うこいつは確実にマゾ、よくて変態というくくりの人間なのだろう。オフィスに来ることは禁じていたはずなのに、と目の前の高校男子こと怪盗にその件を追及してみると、だって会いたかったんだもんという答えにならない答えが返ってきた。
「こっちは誰かさんが目立ちまくってくれたおかげで仕事がし辛くて仕方なくなっちゃってたところなんだけど。それに加えて表の仕事場にも来るなんて、あんたは私の邪魔がしたいの?」
「情報屋も大変だなー」
「分かってるなら怪しまれる行動はひかえて。警察からはキッドの情報を寄こせと言われるわ、当のキッド様はうちの得意客だわで板挟み状態なのよ」
「感謝してるぜ」
「よく言うわ」
「…なんか」
「?」
「恋人の痴話喧嘩みたいな会話だな」
「あん?」
「ごめんなさい、怒らないでください」
「怒らせないでください」
「はい」
「それで、今日はまた何の用件で?」
「あー、それなんだけど、お前この後暇?」
「ここじゃ離せない内容なの?」
「うーん、まあちょっと」
「この後例の白馬王子と仕事なのよ」
「え?」
「言ってなかったかもしれないけど、最近彼、うちを良く使ってくれるお客様なの」
「え、マジ?」
「ええ。それで今日はここじゃできないお話というものを聞くために六本木へお食事に」
「(それって絶対、)」
「最近の高校生の間では、オフィスじゃできない話が流行ってるの?下ネタだったらぶっ飛ばすわよ」
「近からず、遠からずというか、」
「あん?」
「すみませんごめんなさい」
謝りつつも高校生は明らかに気分を害してたとでも言いたげな顔をした。それはこっちの台詞なのだが。いつもの彼らしからぬ反応が少し気になったが、それよりも先決すべきは先ず仕事。
「また獲物?」
「え?」
「用件は大方それでしょう。挑戦状でも叩きつけられたの?」
「図らずも叩きつけられたよね、たった今」
「もしかして白馬王子と一緒のお宝?今回レアな大物らしいじゃない」
「あーそうね」
「ふーん。また対決すんのね、あんた達」
「……」
「なによ」
「んー」
「人の顔じろじろ見ないで」
「いやー、鈍いのもここまで来るといっそ清々しいよね」
「なにそれ」
「分かんなくていいよ、まだ」
盗むか
守るか
(俺も白馬も面倒くさいのに捕まったもんだ)
20130325