君に逢えない夜は不安でたまらない僕には貴女のことを考える時間が少なすぎる彼は君を決して助けてくれはしないだいすきな彼のなまえを思い出せない




老若男女問わず、よく考えると結構モテる男・カンザイ

老人にはやさしく、若者にはフレンドリー
女とはスマートに付き合えて、男の俺をメロメロぞっこんに、ずっこんとハマらせた

…夜って、寝てるか?この時間

離れた場所にいる夜、カンザイを思うと不安でたまらない

女と、…男と何かある方が嫌で電話をしてみたい、したことないが

仕事だ、と言えば、そっか、で済む相手…聞き分け良くても物足りないって、カンザイと付き合ってからの俺の変化に戸惑う

これではでかいケンカにならないし、もめないしぞっこんでいられるわ

ケータイを持ちつつ時計でも時間を見てると、2時にケータイが鳴った

『もしもし、ミザイー』
「ああ、どうした。起きてたか」

俺こそ寝ろ、今までこの電話を待ってないで
ベッドには一時間前に入っているんだから、寝てろ

『丑三つ時って、今で合ってるか?やっぱり3時なのか?』
「いや、2時のことだ。今だな」

やっぱりってのは何だ
あと、確認も今でなくとも…

『そうか、良かった。おやすみー、ミザイ』
「え、待った、カンザイ」
『すまん、俺ねむい。2時で良かった………』
「…カンザイ?おーい」

2時に、おやすみを言う為に?
丑、がつくからか?

「…たまらない」

お互い盛ってないで寝ろ



*****



考えてみたら、と母親に言われても
奥さんいた方が仕事も、って結婚してるハンターを知らんが…ジンはバツイチだし

これが母親からの強いすすめだったら断り難いのか、叔母からなのでどちらもゆるい

お金あるから結婚もいいんだろうけど、大体二足のわらじって言うには稼ぎ過ぎていない?

ハンターと弁護士って何考えてんの、人間は性格第一な母親には俺の学歴と高収入は目に入らず、目が笑ってないーと愛想小言が多い

「おかえり」
「ただいま」

玄関を開く前にカンザイが迎えてくれた
見えない様に見合い写真を地面に落とした

「母親からみかん持たされた」
「おお。丁度今なくなったんだ、良かったな、ミザイ」

頭はばかだが態度は悪くない
目付きの悪さもこの笑顔でカバー出来る

カンザイを紹介しても、大丈夫

明日の朝、地面に落ちてる写真をカンザイは拾って交番に届ける
隣の俺は、カンザイを考える時間すら少ないんですと思いながら家の前に落ちていた、と詳しく説明出来ないカンザイの代わりにするんだろう

それでいい



*****



助けたくも、助けられるつもりでハンターになったんじゃない

よく受かったなとよく言われるが、受かったならハンター証返さなくていいよな?

現に今も、深手を負って動けないんだが、けつポケットには入っているぞ、ライセンス

「…いーたいぞー…」

右、足が折れてる
いいんだ、俺は軸足左だから
下流まで来たから、登山者に発見されるかも
喉が渇いても困らない

「…うんー…?」

けいや…?
けいたに?
もっと変な読み方だったよな

何でそう読むんだ?
読むんだから読むんだ
覚えにくいぞ
…じゃあ、

「…あ!」



「足を折って入院してるのに楽しそうだな」
「遅いー!!やっと、やっと来たなミザイー!!」

いつもよりテンションも高いし声がでかい、見舞品の牛乳プリン冷蔵庫入れておく
ありがとう。個室だからいいんだ

「ミザイ!けいこく!俺けいこくから落ちたんだ!」
「渓谷に落ちた、じゃないのか?はしゃいで、どうした」
「へっへへー」

ミザイ言っただろ?
自分の能力の中にもけいこくって読むのがあるって、思い出せなかったらそれで思い出してみたらどうだ、って

「すぐミザイのことを頭に浮かべたんだ」
「…だからって、見つけたのは俺だが治すのは医者なんだからもう落ちるなよ…警告だ」



*****



いつもの様に疑問符を頭上に浮かべ、顔にモロ出ているくせにカンザイが訊いて来ない

何とか力を振り絞って自分で答えを出したいのか、俺に訊けないと思うほど大事な疑問なのか

どっちみち悔しい
さくっと訊いてほしい

「カンザイ、眉間の皺が深くなるぞ」
「…ミザイ、悪い、本当に悪いんだが…」

両手で皺を左右に伸ばしたカンザイがとうとう訊いてくれた

「…ミザイの名前って…何だったか…」
「…ミザイストム・ナナ…」
「あーーー!!そう…だ、すまん、本当にすまん…」
「………………」

フルネーム思い出せなくてへこむのか
失礼なことだろ、ひどく…すまん

…カンザイ・ナナって小学生みたいな妄想したらかわいいから怒ってないけど許す。






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