運狙
 2013/10/15

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たっぷりの色を含ませ囁くと、怯えと微かな期待の滲んだ瞳からまたポロリと涙が零れ、頬も真っ赤に染まった。

自然と吊り上がる口端。

「そんなに煽らなくてもすぐあげますよ」

俺も結構キてますし、とボリスの手を取り服越しでもはっきり熱く張りつめていると分かるソコにあてがう。

「ひッ…!?」

瞬間びくりと手が跳ね、逃げるように離れた。

(可愛いなぁ)

予想と寸分違わない反応に口端を吊り上げながら眺める。

見開かれた灰硝子の視線が恐る恐るソコに移り、視覚を以て怒張を確かめ、途端耳まで赤くし。
何度となく、それこそ直接触れたことだってあるというのにボリスはいつまで経ってもコプチェフ自身に触れることは愚か見ることさえ慣れてはくれない。
曰く「慣れたらマズいだろ」とのことだが、見て赤くなる方が男としてマズいと、彼は果たしていつ気付くのやら。

キツく目を閉じてしまったボリスに笑いかける。

「先輩。ちゃんと見てくれないと明るくした意味ないですよ?」

灰硝子は隠れたまま口が開いた。

「変態」

そして紡ぎ出された言葉は存外力強く、色気は感じられない。寧ろ今までの雰囲気までぶち壊され、がくりと脱力してしまった。

「…否定はしません。しませんけど、もうちょっとこう…他の言い方ないですかね?」

「ない。まだ脱いでもいねぇのにどこに興奮できんだよ、万年発情期」

散々な言われようだ。ならば彼は人の裸体を見なければ興奮しないと言い切れるのだろうか。

溜め息を一つ漏らし、ボリスの手首を解放して自身のシャツに手をかける。

「どこに?そうですね………例えば」

不穏な気配を感じたボリスが恐る恐る目を開いた。

開かせる手間が省けた、と薄く笑い釦を全て外しただけに留め、ボリスの顔の脇に肘をついて迫ってみせた。

「ッ…!」

「先輩なら、こうされるだけで疼いてきませんか?」

そして声を低く、甘くして囁くと面白いくらいボリスの体が強張る。

くす、と笑んで鼻にキスを落とした。

「同じことです。ボリス先輩の仕種とか、声とか、ちょっとしたことで俺は簡単に火が点く」

そのまま額、瞼、頬と唇を滑らせ、普段髪に隠されている耳を露わにする。
触れた髪が僅かに濡れていたのが少し気になったが、今聞くのは野暮かとスルーした。

「そういう訳で、万年発情期はもう爆発寸前です。
…今すぐにでも挿れたい程度には、ね」

耳を舐め上げ、中に舌を差し込む。

「んあぁッ!」

びくりと肩が竦み、程良く温かかったそこが一気に熱くなった。

顎を軽く指で固定し、思うままに蹂躙する。

「ッ、ぁ…ぅ…!」

小さく上がる声が含む色に陶酔しそうだ。

耳に唇を押しつけたまま囁く。

「…先輩…気持ち良いですか?」

「そ、こで…しゃべるな馬鹿…!」

拒絶の声の割に抵抗は頭を振るという至って小さなものだけで、手はシーツをキツく握り締めたまま離れない。
彼のポリシーなのか知らないが、寝る時も外さない長い手袋に腕まで覆われているせいで見えない指はきっと力の入れ過ぎで真っ白だろう。

ゆっくり体を起こし嗤う。

「そんなに嫌なら押し返すなりできるじゃないですか。別に拘束してないですし」

言葉にして、我ながら意地が悪いと思った。

ボリスの方からコプチェフの肌に触れてくる事は滅多にない。

髪や顔、腕はともかく普段晒される事のない部分に触れるのは恥ずかしいのだといつか無理矢理本人から聞き出した。

そして今は服を肌蹴たせいで露わになったコプチェフの上体を押し返す事も出来ず、かと言って背中から服を引っ張るのは縋っているようになってしまうからとプライドに邪魔をされ出来ない。
結果行き場を無くした手が掴めるのはシーツだけ。重々承知だ。

だから案の定というか、殺気の籠もった視線を向けられる。

「テメェ…!」

言外に「分かってんだろ」と言われ、笑顔を貼り付けた。

「ごめんなさい。可愛がるって言ったのに苛めました」

「は…?」

言われた事を咀嚼しきれず、一瞬きょとんとするボリス。

「………!!なッ…ち…違、そうじゃなくて…!」

そして言葉足らずで妙な誤解をされたと気付き、目を見開いた。かと思えば既に赤い顔が爆発的に真っ赤に染まる。

(見事にテンパってるなぁ…)

その内顔から火でも噴くんじゃないだろうか。首に軽くキスを落としながら声を上げて笑い出しそうになるのを堪える。

「じゃあ苛めて欲しかったんですか?」

「だから違う!そもそもが間違ってんだよ!お前に触れられんのが嫌なわけ………うあぁ違う今のなし!何でもない忘れろ!!」

民警として心配になる程ボロボロと本音を漏らすボリスを、もっとしどろもどろにして普段の彼が言わないような言葉を引き出してやりたくなるが、それより先に怒りのボルテージの方が上がりそうな気がしてきたので、それ以上の言葉責めを諦めて首に強く吸いついた。

「痛ッ!」

制服で隠れるギリギリの位置に付けた所有印。少々力加減を間違えたのでいつものように一週間やそこらでは消えないだろう。

「コプ、チェフ…!」

小さく震えながら呼ばれた名には痣への非難の他、確かな情欲が含まれていて。
己の唇が乾くような錯覚にそこを軽く舐めた。

「ボリス先輩って本当、誘うのは上手ですよね…!」

言葉と同時に性急に下着ごとボリスのスボンを下ろし、露わになった下肢の間に顔を埋める。

「ひッ!?」

緩く勃ち上がった中心の根元に軽くキスを与え、先端に向けてベロリと舐め上げた。

「後はもうちょっと力の抜き方覚えて下さいね?」

「…っん、な無理…うぁ…!」

今度は先端から太腿の付け根に向かってゆっくり舌を這わせ、ついでと内股に幾つも朱い花を散らす。

「可愛い、ボリス先輩…」

熱に浮かされた声で漏らした言葉は普段ならコンマ数秒で拳か蹴りが飛んでくる彼の地雷だが、今は余裕がないのか髪を緩く掴まれるだけ。

「ッあ、ぅ…!」

震えながら弱々しくされるそれは制止にもならないので、気に留めることなく舌を閉ざされたままの秘孔へと移動させた。

すると彼の汗と精の香りに混じって、微かな甘い匂い。

「…?」

どこか覚えのある香りに首を傾げ、元である秘孔に更に顔を近付けた。

「!やッ…め、馬鹿…そこ汚い…!」

だが途端にボリスが髪を掴む力を強くして拒絶するので、諦めて一度顔を上げる。

「痛たたたッ…!ボリス先輩ちょっと引っ張り過ぎ…」

言葉が喉奥で止まった。

「?コプチェフ…?」

乱れたシャツ一枚になり、仄かに色付いた白い脚を晒す彼の姿に視線が釘付けになってしまったのだ。

(…う、わ…これは…)

前髪をかき上げるふりをして一度視界から彼を外す。

これは擦り切れた理性で見るものではないと思う。
ただでさえ限界が近く、もういっそ本能のまま貪ってしまおうかなんて不穏な考えすら頭を過ぎるが、堪えて意地悪な笑みに代えることに成功した。

彼の髪が濡れていたことを思い出し、芋づる式に甘い香りの正体へ辿り着いたからだ。

「ッ…コ、プ…?」

指の隙間から見えたコプチェフの笑みに身の危険を感じたボリスが僅か体を起こす。
それを片手で制し、下肢にもう片手を伸ばした。

「汚い、ね…嘘ばっかり」

「ッん…!」

ぐり、と先程まで舌を這わそうとしていたボリスの秘部に中指を挿し込むと熱いそこが緩く締めつけてくる。
そしてぬるりと指に纏わりつく液体で確信が確定に変わり、笑みが深まった。

「しっかり洗ってローションまで使ってるクセに」

シャワーを浴びてきてくれただけでも十分嬉しいのだが、一体何を思ってここまで準備してくれたのか。

(つーか、一人で孔に指突っ込む先輩とか絶対エロいだろうな…)

今度見せてもらおう、なんて不埒な考えにまた笑った。

「ッ〜〜〜!」

一方、いざ言葉にされたことにより改めて恥ずかしくなったボリスは真っ赤な顔を逸らし脚を閉じようとする。
残念ながらコプチェフの体があるので叶わないが。


そんなに恥ずかしいならやらなければいいじゃないですか

期待してたのでしょう?淫乱ボリス先輩


いつもならそう嘲り、傷付いた表情を存分に楽しむのだが、可愛がると言った手前泣かせるのは忍びない。

「ふふ…ごめんなさい、意地悪しました。
…俺の事を思ってやってくれたんですよね?」

だから柔らかい声で謝罪し、傷だらけの太腿の強張りを解くべくそっと撫でてやる。

「………」

「先輩?」

足の力は緩んだものの、両腕で顔を覆い無言になってしまったボリスに優しく声をかけた。
もし完全にヘソを曲げてしまったら今日はこれ以上の行為を諦めるしかないだろうか、と一抹の不安に駆られながらも返事を待つ。

口元が一度きつく引き結ばれ、開き。

「分かってんなら早く挿れろ…!」

吐き出された蚊の鳴くような声は相反して強気な言葉で。

「………はい」

安堵と同時に下半身に限界を感じ、片手で己の昂りを取り出した。

既に解放を待つばかりになっているソコをボリスの秘孔にあてがい、入口の感触を確かめるようゆっくり侵入する。

「ん、ぅ…!」

少々狭いが、拒絶するような締まりはなく、ボリスの声も痛みは感じていないようだった。

「先輩…ボリス先輩。顔見せて下さい」

そっと顔を覆っている両腕を剥がし、指を絡め取る。

情欲に溺れかけていても、確かな意志が灯る瞳とぶつかった。

堕ちてやるものか、と意地にも似た確固たるそれは、こうした付き合いを始めてから約半年と経つが一向に変わらない。

「…何だよ」

元々女癖が悪く、浮気とも取れる行動を頻繁に起こすのはコプチェフの方なので、本気で彼に愛してもらえるなんて高望みはしてはいけない。

「ボリス先輩…」

だが一度。いっそ気まぐれでも構わない。コプチェフが望む言葉をくれないかと願ってしまうのは傲慢だろうか。

「絶対、言わねえらな」

まるで心を読んだかのように的確に釘を刺され、思わず体がびくりと震えた。

「…嘘でも良いんですけど」

「それは俺が嫌だ」


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