運狙
 2013/05/31

【2013ボリスの日限定フリー】








〈if -彼が悪魔だったら-〉



「別に殺すって言ってるんじゃねぇだ…いいだろ?」


最初は夢だと思った。

次は疲れだと思った。


今は両方であってくれと願っている。


ベッドの上、俺に跨った灰髪の女性が首を傾げる。

「ダメか…?」

さらりと流れるセミロングの灰髪、白い肌、長い睫毛、柔らかそうな唇。
見た目は随分と可愛らしい彼女は己をインキュバスと名乗った。

俺の記憶が正しければその名は夢魔、若しくは淫魔と呼ばれる悪魔。夢の中に現れて女性を孕ませる―――空想上の化物だ。

「………」

顔や体などおおまかな見た目は人間と同じだが、その背には人間にはない大きな蝙蝠に似た翼が生えている。
さらに夢では有り得ない重量や体温を腹部に感じ、はっきり見えてしまっているので、確かにこの淫魔は此処に存在しているのだと認めざるを得ない状況だ。

だが仮に認めたとしても彼女が自分の夢として出てこないことや、女性型の名称サキュバスを名乗らないこと、強引に行為に及ばない理由など尽きない疑問が寝起きの頭をかけ巡り、もう思考を破棄して寝直してしまいたいとすら思い始めていたりする。

じっと此方を見つめる瞳は赤く、瞳孔は猫のように細かった。

「…まだ寝ぼけてんのか?」

不意にぺちぺちと頬を軽く叩かれる。熱いくらい高い体温だ。

とりあえず会話はできそうなので、乾いた唇を動かす。

「普通…夢に出てきません?」

きょとん。鋭い目を丸くした彼女が次第に笑みに表情を変えていった。

「最近退魔師と殺り合ってよ。殆どの能力奪われちまったんだ」

言葉は物騒だが、浮かべた苦笑は悪魔より人間に近い表情だとぼんやり思う。

「どこまで知ってるかな…インキュバスとサキュバスは実は同じで、対象によって姿を変えられるんだ」

もっと正確に言えば人間の男性から精液を奪い、女性にそれを注ぐのだ、と。

なるほど少し分かってきた。

「もしかして、姿を変えることもできなくなってますか…?」

「ああ。おかげさんでご覧の通り体はインキュバスなのに顔はサキュバス寄りだ」

ついでに、と続ける。

「俺が今持ってる欲はサキュバスのそれなんだよ。………あとは言いたいこと分かるな?」

「俺に、男を抱けと」

彼女、もとい彼は満足げに頷いた。

「もの分かりの良い奴は好きだ」

その言葉に不覚にもときめいてしまったのは悪魔の誘惑のようなものだと思っておく。

「まあ意志関係なくその気にさせることもできるけど、残念ながらそうするとアンタの理性が完全に崩壊する可能性がある。…流石に嫌だろ?」

体を起こし、腰に腕を回した。

「………殺したりしないんですよね?」

下手に出てはいるがこれは脅迫だ。男を抱くというイレギュラーを受け入れなければ、人として必要な理性を奪い去るという。

すり、と胸に頬を寄せて彼が笑った。

「ああ。一度アンタが思うままに抱いてくれるだけでいい。それだけですぐ出て行ってやるから」

一つだけ残った疑問はひとまず飲み込み、甘い香りを放つ体をシーツに埋める。

悪魔の言うことを信じるなんてどうかしているが、彼なら信じてもいいと思う自分がいるのも確かで。

(…もうどうにでもなれ)

きっと惑わされているのだとごちゃごちゃ考えるのを諦め、真っ白な首筋に噛み付いた。











‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥










ブツ、と皮膚の切れる嫌な音が耳に届く。

「ッぐ、ぅ…!」

声も、表情も明らかに快楽など拾っていない。ひたすらに苦痛を訴えている。

それでも淫魔の体は造りがそれ用なのか、中は柔らかく俺の自身を受け止めた。

動きを止め、額に貼り付く髪を指で寄せてやる。

「…一度抜きますか?」

いかに悪魔と頭で分かっていても、見た目が可愛いだけに痛がらせるのは少し良心が痛むのだ。

涙の浮かぶ紅瞳が睨んできた。

「、いい…続けろ…!」

「でも………あ、ひょっとして痛いの好きですか?」

足で背中を強かに蹴られる。結構痛い。

「んなワケ、あるか…!気持ちイイのが好きに決まっ、てんだろ…!」

「じゃあ益々意味が分からないです。どう見ても貴方気持ち良さそうには見えません」

言いながら秘孔に侵入した自身で軽くナカをかき混ぜてやると、内股がびくりと引きつった。

「ッ…!」

「…鏡見ます?泣きそうな顔してますよ」

気遣いながらも自身は萎える気配を見せないのに驚く。淫魔の名は伊達ではないということだろう。

ボリスが一度目を閉じ、深呼吸してから口を開いた。

「、お前…名前は…?」

「はい?いきなり?いや今更?…なんか言ったら魂持ってかれそうで怖いんですが」

「………ボリス」

「?」

「俺の名前だ。殺したい時に呼べ」

「はいぃ!?」

情事の最中と思えない発言につい大声が出た。

気に留めた様も子なくニヤリ、挑戦的に口元を歪めるボリス。
頬が上気しているのもあっていやに色があった。

「悪魔にも名はある。教えたら最後、存在の有無をソイツに握られるから言わないのが普通だけどな。
…で、お前の名前は?」

「………コプチェフです」

少し逡巡して言った。言ってしまった。

(ああ、もし名前で生死云々が嘘だったら俺死んだ)

そっと心の中で十字を切る。
だがボリスは全く裏がない、嬉しそうな笑顔を見せた。

「コプチェフ、」

そしてまるで愛しい人を呼ぶ時のような甘い声で呼ぶ。

首に細い腕が回る。

「ん、ぅ…!」

そのままボリスは体を起こし、所謂対面座位の体位になった。
自身が深く媚肉に包まれ、更に苦しそうな吐息が熱を帯びて耳元に吐き出されると、ぞわりと背筋を快感が走る。

くすりとボリスが笑った。

「…おっきくなった」

「ッ…!」

「なぁコプチェフ…?俺言ったよな?思うままに抱いていいって」

グチュ、ボリスの腰の動きに合わせて卑猥な水音が結合部から漏れる。

「…俺を気にするな。コプチェフが気持ち良いように犯せ」


ぐっちゃぐちゃになるまで抱き潰すの、好きだろう―――?


「………淫魔」

一気に削ぎ落とされた理性をかき集めて漏らした皮肉は奇しくも彼そのもので皮肉にならなかった。

双丘に両手を添え、腰を強く打ちつける。

「ぁッ…―――!!」

「本気で、抱き潰すから」

悪魔でも泣いて許しを請う位に。










‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥










目を覚ますと、部屋は朝日に優しく照らされていた。

「………あれ?」

確かに腕の中にあった体温がないことに辺りを見回すが、気配を感じないので恐らく約束通り出て行ってしまったのだろう。

(まだ訊いてないことあったのになぁ…)

小さく溜め息を吐いて上着を羽織った。

(何で交渉なんかしたんだろう)

いざ抱いたら歯止めが全くきかなくなった。
男の体にも関わらずひどく興奮した。

彼の体自体に催淫効果があるならあんな脅しまでして同意を得ずとも、さっさとその気にさせてしまえた筈。

(自惚れでなければ、だけど)

つまり彼は少なくとも同意の下での行為、『俺』を求めていたということになる。

ガシガシと頭を乱暴に掻いた。

「あ〜〜〜…また来ないかな…」

確かめて、否定されればそれでオシマイ。
だがもしも肯定されたら。



「めいっぱい可愛がってあげるのにな」



そう言って浮かべたのはきっと悪魔に引けを取らない真っ黒な笑顔だった。



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