運狙
 2013/02/23

※まだぬるいですがR18


























 野良猫捕獲講座〜実践編〜




常より五月蝿く脈打つ自分の心音。
荒い呼吸音。

「あ〜〜〜クソッ!逃げ足速すぎるだろ!」

それすら煩わしいと思う程に、コプチェフは苛立っていた。

理由は至って単純。
昼に誘惑とも取れそうな挑発をしてきた可愛い野良猫、もといボリスを未だに捕獲できていないからだ。


ボリスは仕事が終わると同時に「鬼ごっこ開始だな」と言って、脱兎の如くコプチェフの前から逃げ出した。しかもその逃げ方が実に意地の悪い。

視界の端に小さな影が映った。

「どうした?もうギブアップか?」

ずっとギリギリ触れられない絶妙な距離を保ち続けるのだ。
何となく、餌をちらつかせれば言う事を聞く犬の気持ちを理解する。

冬の外気であっという間に冷やされる汗を拭い、睨んだ。

「ハァ…!すると、思う、のか…!?」

煙草も彼に奪われたままなため、苛立ちはとうに限界点を突破している。敬語は意識的に放棄した。

ボリスはこの一言でコプチェフの精神状態を把握したのだろう、困ったように頭を掻く。

「思わねぇ。っても、これ以上はお前風邪ひくし…」

少し考えて、溜め息を吐くボリス。

「じゃあこれで最後にするか。
…見失うなよ」

一段トーンを落とした声で宣言し、猛スピードで遠ざかる灰の影。

これで最後、つまり捕まえられなければ今日はお預けという事だろう。

「ッそれだけは御免だ…!」

誰にともなく呟き、コプチェフも駆け出した。





暗い部屋、ベッドの上に転がる影は一つ。

「あんなちっちゃい体のどこにあんだけスタミナあるんだ…」

結果から言えば、逃げられた。しかも署から寮までの直線一本道(距離にして1km弱)全く間を縮める事も出来ず。

「はぁ………」

中途半端に火をつけられた情欲とか、弄ばれた怒りとか、温もりが手の内にない寂しさとか、持て余している感情全て込めて溜め息を吐いた。

日常ちょっとした事で意地悪するのはコプチェフの方だ。パトロール中迫るフリをしてみたり、思わせぶりな事言ってみたりと、彼に怒られない程度で。

それがいざ受ける側になるとこんなに辛いとは思ってもみなかったので、少し反省。

(今度からもうちょっと控えよう)

密かにそんな決意をして、サイドテーブルに置いた煙草に手を伸ばす。

「ん」

「ありがとうございます。………ん?」

至極自然に受け取ってしまったが、今この部屋にはコプチェフ一人しかいない筈。加えて握らされたのは結局返してもらえなかった開封済みの箱。

勢いよく起き上がった。

「…よ」

部屋着でベッドに腰掛け、普段と変わらぬ仏頂面で手を挙げてみせるのは間違いない、ボリスその人。

「いや『よ』じゃなくて…え?先輩?何で?」

驚きで目を白黒させていると、ボリスが靴を脱ぎベッドに、正確にはコプチェフの腹の上に乗る。
僅か愉悦の滲む仏頂面がずいと近づき、鼻先を舐められた。

「野良猫は気紛れなんだ…分かってんだろ?」

手袋に覆われた手が思わせぶりに胸を撫ぜ、耳元に唇が迫り。



「…めいっぱい可愛いがれよ」



たっぷりの色を含んだ誘いの言葉に抗う術を、コプチェフは持たなかった。





舌の絡まる音にこれだけ興奮するのは久しぶりだな、と何処か遠くで冷静な自分が言う。

「ん、ん…ふぁ……、ぁ」

それに昼から煙草を吸っていなかったからか口内に引きこんだ熱をどうにも離し難くて、結果いつもより性急かつ執拗な口付けとなってしまっていた。

引き込んだ舌を戯れに優しく歯で挟めば面白い位細い肢体が跳ね、逆に舌で彼の口内を好き勝手蹂躙してやればくたりと蕩ける。

「はあッ………!、ぅ…んん…!」

呼吸を合わせてやる気遣いなど出来ていないので、合間に聞こえる嬌声は少し苦しげだ。
それでもボリスは緩く肩に腕を回したままの姿勢を保ち、抗議に服を引っ張ったりもしない。

ニコチン不足で苛立っているコプチェフに多少なりとも罪悪感を感じているからだろうと易く予想できて、思わず口元が緩んだ。

(優しいなぁ本当………じゃあ遠慮なく)

一層深く口付けて、そのまま体を反転させる。
軽いボリスは簡単にコプチェフの上からベッドへと押し倒せた。

「ん…」

「ッふ、はぁ…!はー…はー…はぁ………!」

チュ、とわざとリップ音を立てて離れる。

薄暗い部屋でも分かる程真っ赤に染まった顔、濡れた唇、顎まで伝った二人分の唾液、どれもが酷く扇情的だった。
だがその分はっきり見えないのがどうにももどかしくて、熱いそこを優しく撫でて問う。

「明かり、つけてもいいですか…?」

ひくり、ボリスの表情が強張った。

「駄、目…駄目だ、嫌だ…!」

「何でですか?先輩の可愛い所、全部見たい」

頬の熱が上昇するのが分かる。

「見なくていい!」

若干ムキになっている辺り、特別な理由がある訳ではなく恥ずかしがっているだけ。口端を吊り上げた。

「えー………分かりました、じゃあこのままでいいです」

ならば妥協するフリをして押すのが彼には効果的。

明らかにほっとしたボリスに顔を、それこそまたキス出来そうな距離まで近付け、にっこり笑った。

「その代わり、ちゃんと喋って下さいね?」

「は………?ッひあぁん!」

不意打ちで、服越しに胸の頂を指で擦ると、あられもない声で鳴く。

ネコとして性感帯を散々開発してやったボリスの体は、本来感じる筈のない箇所でも敏感に官能を拾う。ビクビクと体が震える。

「あ、あぁ…ひ、やぁ…ん…!」

それに気をよくして更に尖った頂をぐりぐりと押し潰すよう刺激し、鼻先にキスを一つ落とした。

「先輩。今どんな感じですか?」

そして意地の悪い質問を、至って自然な声を装ってする。

「は…?分かってん…!ッあぁ!」

反論を咎めるため軽く頂を爪で引っ掻いてやったが、どうやらそれすら感じるようだ。

「感じてるのは分かります。でも先輩の中の様子って分からないです。どこが痺れる感じするとか、熱いのはどことか、言って教えて下さい」

見えないんだから、その位はサービスしてくれてもいいでしょう?

「〜〜〜ッの…!」

思惑に気付いたボリスが怒りと羞恥で耳まで真っ赤にする。
声にはしないが「悪趣味」と潤んだ灰硝子が語っていた。

肯定するようにくすりと笑い、唇を指でなぞる。

「さぁ、どっちを選びます?
先輩の綺麗な体をみんな見せるか、可愛いこの口で全てを語るか」

悔しそうに睨みつける、睦言を苦手とするボリスが選ぶのは当然。

「喋るわけねぇだろ、馬鹿…!」

(―――勝った)

「はい」

今浮かべている笑みは性格の悪さが如実に現れているだろうと、鏡を見なくても分かった。

「………ッ」

スタンドライトをつけ、はっきり見えるボリスをよく観察する。

首から鎖骨にかけての限定的な範囲であるが、汗ばんで薄く赤に染まった肌が見え、邪魔な服を今すぐ剥ぎ取ってやりたい衝動に駆られる。
それをだいぶ擦り切れた理性で堪え、羞恥から顔を覆ってしまった腕を出来るだけ優しくベッドに縫い付けた。

「…泣かないで下さいよ」

露わになった顔が赤いのは当然だが、灰硝子から今にも零れそうな程涙が溜まっていて、可愛いなと思いつつ少し困る。
コプチェフとて根っからの悪人ではない、生理的なものならともかく感情を伴う涙など流されると傷付くし尻込みしてしまう。

睨むべく目を細めた事により、ついにボロリと大粒の涙が零れたのには盛大に焦った。

「意地悪…変態、悪趣味…、ひくっ…」

「ご、ごめんなさい、ボリス先輩謝りますから泣かないで…!」

本格的に泣き出したボリスを、拘束した手を解放して宥める。
が、次の瞬間その動きは否応無しに止まる事になった。

「ッこんな体見た、て楽しくねぇだろ…!?」

言葉の意味が理解できない。
明かりをつけた状態で行為に及んだ事はないとはいえ、薄闇の下で彼の体は何度となく見ているし、現にこんなにも煽られているというのに今更何を言っているのだろう。

「柔らかくないし、傷だらけ、だし…女に、ないモノついてるッ、ン………んむぅ!」

どうやらコプチェフが付き合っている『夜のオトモダチ』に引け目があるだけなようなので、これ以上は語らせまいと唇を己のそれを以て塞いだ。

「ん…、はぁ………あのですね、ボリス先輩」

「ふぁ、あぅ…!」

なんて下らない事で泣いてくれてんだ、この人は。

唇を離し、反論されないよう代わりに指を口内に突っ込む。

「先輩はその辺の女に負けない位綺麗ですよ…肌は滑らかだし、感度は良いし………そもそも俺は貴方を抱きたいんだ」

「ん、んむ………ん…ッ!」

熱く濡れた口内がどこか膣内に似ていて気持ち良くて、指を増やして蹂躙した。

「ああ、そういえば可愛がれって言われてましたね俺…ちょうどいい」

言っている内にさっきまでの罪悪感は吹っ飛び、持ち合わせている嗜虐性が首を擡げる。

「…ん、ッぷは…!」

ボリスの口内から指を抜き、淫靡に濡れたそれを自分の舌に絡め、笑った。

「そんな下らない悩みなんか吹き飛ぶ位可愛がってあげますからね?



―――覚悟してろよ」







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