流木様より

寒い。当たり前だ、今冬だった。めっちゃ寒い。外出れない無理無理絶対無理、私しんじゃう。


「決めた私寒いから学校休む」

「なーんて許されるはずないだろこの馬鹿が」

「止めないでよ倉ちゃんの馬鹿ぁぁぁ」


同時にべりっと剥がされてしまった命綱もとい布団を取り返すべく腕を伸ばしたが届かない。仕方なく上半身を起こしてみると、剥がした張本人からなんかこう、残念なものを見るような目で見られていた。


「ていうかお前、今日日曜日。もっと言うなら既に冬休み。一昨日から」

「えっうそ」

「今日は12月25日、クリスマスだ。…大丈夫か?」

「何が?」

「……」


無言で私の頭を指差してくる倉ちゃんは、なるほど確かに私服だった。そうだよね今冬休みだったね。ってことは外に出ることなくのんびりぬくぬくできるってことだ、やったあ!


「よーしおやすみなさい!」

「アホか、何のために俺が来たと思ってんだよ」

「ええええアホって…ていうかそうだよね、なんで倉ちゃんが私の部屋に?あれ?」

「今更か……だから出掛けるんだよ」

「もしかしてでーと?」

「そ、デート。わかったらさっさと着替えて玄関な」

「……我が家でデートっていうのは」

「却下」




****


「やっほい倉ちゃんお待たせー!」

「おー、行くか」

「うん!でも寒いから屋外はやめてね!」

「わーってるよ、とりあえず昼飯食いに行くぞ」

「私なんでもいいー」


自転車の二人乗りは法律違反だから私達は歩いて移動します。寒いけど。
玄関前で差し出された倉ちゃんの手は手袋越しでもあったかい。訳もなく嬉しくなってぶんぶん腕を振ったらやめろって怒られた。えーっ!と抗議すると、がしっと抱きしめられた。これで腕振れないだろなんて言ってくれてるんですが、ねぇちょっと。


「ごめん倉ちゃん」

「反省したか?」

「違う、この体勢だと倉ちゃんがあったかいから眠くなってきた」

「寝たら放置な」


****




約一時間後、ご飯を食べてからゲーセンに移動する途中、たくさんのカップルがいらっしゃった。自分たちもその中の一組なんだなあ、と認識する度にいつも思うんだけど、


「リア充なんて潰したろって」

「馬鹿かお前、俺もお前も今リア充だろうが」

「そうだね!でもなんかあの幸せそうな姿見ると羨ましいというかなんというかリア充潰したくなるというか」

「要するにあれか、俺とリア充するのは不満だと?」

「まっさかー!それに世のリア充さん達には悪いけど、私が一番幸せなリア充だからね!」


えっへんと胸を張って宣言すれば、倉ちゃんは呆れたような溜め息をついた。次いで私の両方のほっぺたをつまんでむにーっと伸ばした。


「いひゃいいひゃいほふははん(いたいいたいよ倉ちゃん)」

「ふん。お前には悪いけど、一番幸せなリア充は俺だから」

「ハンハッヘー!(ナンダッテー!)」


****



リア充を潰す代わりにゲーセンで時間を潰すこと約二時間。3時のおやつの時間です。倉ちゃんのうちの近くにおいしいクレープ屋さんができたらしいので、そこでクレープを買って倉ちゃんのうちにレッツゴーすることになりました。

私の左手にはゲーセンの戦利品、右手には倉ちゃんの手。やっぱりあったかい。


「お前、外出たら寒くて死ぬとか言ってた割に元気だったな」

「えへへー、寒いけど、倉ちゃん一緒だったからねー辛うじて生きてるー」

「そりゃよかった。ほら、ここクレープ屋。温かいクレープとかあるらしいぞ」

「私それにする!アップル!」


嬉々として注文に向かおうとする私に、倉ちゃんは嬉しそうに笑った。



****


クレープを持ってお邪魔した倉ちゃんのうち。こたつに入ってクレープとこたつに乗ってたみかんとを食べてから倉ちゃんの部屋に上がった。暖房をつけて、2人で布団に潜り込んだ。やっぱり室内っていいよね、あったかくて。


「倉ちゃん、クリスマスツリーとか飾らないの?」

「流石にそこまでしない」

「なんだ、そっか。今年はサンタさんくるかなー」

「知らね。俺からのプレゼントなら確実にあるけどな」

「やったー!」


もそっと布団から出た倉ちゃんは、机の上から小箱っぽいのを取り上げた。わくわくしながら見ていると、何を思ったか倉ちゃんはその箱を自分で開けた。


「わあお倉ちゃんそれ私にくれるんじゃないの?」

「そうだ」

「ならなんで開けちゃうのー」

「お前に開けさせたら包装紙から箱まで全部ぼろぼろになるだろ。箱の中身はやるから」

「いえーい!


布団に戻ってきた倉ちゃんは、手に持ったそれを私に渡すかと思えば、僅かに考えるような素振りをした後、床のクッションの方にこう、ぽーいと。
しれっとしたまま再び布団に潜り込んだ倉ちゃんに私は目が点である。


「倉ちゃん倉ちゃんなして今投げたの?私のプレゼント…!」

「まあ気にすんな。帰るときにでも拾えばいいだろ」


プレゼント?んなことよりもこっち、と倉ちゃんは言う。こっちってどっちだ。


「こっち向け。大好きだ、名前」


再び絡めた手のひらと同じくらい唇があついのって、つまりはまあそう、こういうこと。




絡めた指から溶けていく


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企画参加しました。
ありがとうございました!!



120101

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