流木様より
起きて。
聞こえた柔らかい声音に従ってゆるゆると目蓋を持ち上げると、目に入ったのは窓から差し込む橙色の光。そのまま首を回すと、隣に座るヒロトがいた。
「ずいぶんよく寝てたね。もう6時だよ」
「そっかー…おはよう」
「ん、おはよう」
どうやら、本を読んでいたら眠ってしまったらしい。栞が床に落ちてしまってはいるが、本自体に傷はなくて一安心。栞を拾うために身を屈めようとすると、ぱきぱきと体の至る所から骨のなる音が。ソファの上とはいえ、座ったまま寝たせいで体がすっかりこわばってしまった。
つい顔をしかめると、いきなり隣から抱きつかれた。そこまではいいが、容赦なくかかる体重に逆らえず、ソファに倒れ込む。
胸あたりにある頭を撫であげると、顔をあげたヒロトが微笑んだ。
「なんか眠たくなってきたかも、俺」
「うん。眠そうな顔してる」
「名前があったかいからかなあ」
すり寄ってくるヒロトに普段のしっかり者の面影はない。甘えたな一人の男の子。いつの間にか抱きつかれるというより抱きしめられる形になった私は、眠りかけている彼の名前を呼んだ。
「ヒロト?」
「ん、」
「起こしたの、何か用事があったんでしょ?」
「…なんだっけー……」
忘れちゃったなあ、なんて呟く彼の声は、今にも眠ってしまいそうに間延びしていて。この体勢に参ったなあと思う反面、嬉しいかも、とか、思ってみたり。普段の彼はこんな姿を見せないから、ちょっと優越感を感じた。
「ん…ねえねえ名前」
「はいはい」
「悪いんだけど、俺、寝る…ね、あと、」
「うん?」
「大好き」
「…ちょ、」
言うだけ言って、本当に眠ってしまった。さっきはちょっと嬉しいと思ったけど、今はすやすや眠る彼が少し憎たらしい。1人で赤くなってる私が馬鹿みたいに思えてくる。
けれど、このままでは少し悔しいので、私も眠る前に言っておこう。
「私だって、大好きだよ」
思い切り抱きついてから彼の顔を見やると、案の定、赤みがかった頬と、僅かに見開かれた瞳があった。してやったり。ヒロトの呼吸が近づいたのを感じて目を瞑りながら、音にならないであろう言葉を口にした。
夕暮れに君と
おやすみ。
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