まどろみの海
目の前でシャークが眠っている。穏やかな表情で。それが嬉しくて、遊馬はその胸に顔を摺り寄せた。
 いくつもの記憶のピースが胸に蘇ってくる。初めて出会った時。初めてデュエルした時。シャークを追って町中走り回った時。タッグを組んだ時。鍵を守るために必死になってくれた時。挙げればキリがない。それぞれ、シャークがどんな表情をしていたか遊馬は全部覚えている。その記憶のほとんどが厳しい表情か、どこか寂しさを感じさせる笑み。
 遊馬は、シャークがこんな穏やかな表情をする日の来ることを密かに願っていた。夢が叶うというのはこんなに温かくて幸せなことなんだなぁ、としみじみ噛みしめる。
 たった一個でさえこんなにも満たされてしまうのに、両手いっぱいに抱えている夢の全てが、もし一気に叶ってしまったらどうなるのだろう。体が風船みたいに膨らんで破裂してしまうのではないか。
 下らない妄想をしてほくそ笑む。こんな時間がたまらなく愛おしい。
 シャークの胸の中でシャークの温度を感じて、鼓動を聞いて浅い眠りの中を漂う。
「ゆうま」
 シャークは寝ぼけているのか、吐息のような声で名前を呼び、腕を巻きつけてくる。包まれたような形になり、遊馬はぼんやり思う。
――これが海なのだろうか。
 遊馬には難しいことは分からない。そもそも難しいことは考えない。だから、それは本能の奥から湧き上がる思考だった。シャークの体の温度に、鼓動に、生命の海を連想したのだ。
――生きている。そうだ。俺たちは生きている。
 忘れていたわけではない。ただ生きているという事実が急に強い情動を伴って体を駆け巡った。二人こうして過ごす一瞬一瞬がものすごい奇跡の積み重ねの上にあることを自覚した。
 鉄男がシャークにデュエルを挑まなかったら。銀次がシャークの窮地を知らせにこなかったら。カイトから魂を取り戻せなかったら……。
そんなことを考えながら再びまどろみ、遊馬は眠りに落ちていく。

とくん とくん

二人分の鼓動がこの夜に溶けていく。
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