BOOK_部屋とYシャツと私刑


ツンデレ女帝愛子様が極卒くんを平手打ちするだけの話です。


【本文見本】

 薄い灰色の罫線が引かれた帳面。
最初のページに黒いインクで綴られた一行を指先で辿る。
とっくの昔に書かれた一言、とっくの昔に乾いたインク。
誰のために綴ったわけでもない言葉を、別段楽しくも無さそうに彼はその細長い指でなぞる。紙と同じ真白の肌とインクと同じ黒の爪で、一文字一文字を確認するように。

「極、ちょっと来なさい」

背後のソファに座って本を読んでいた彼女の声に、極と呼ばれた彼は顔を上げる。
返事をする事もなく一歩、彼女の真後ろに立った。
その気配に本をゆっくり閉じて彼女は立ち上がり彼を見据え

バチン

無言の平手を青白い顔に叩きつける。
彼は全く驚いた様子もなく、彼女を見下していた。
「誰が読んで良いと言ったのかしら」
「しかし愛子様。いけない、とも言われておりません」
「許可された事以外はしないで頂戴。何一つとしてよ。それに」
彼の手から青い表紙のそれを奪うように取り、代わりと言わんばかりにその手の甲をはたく。
「それに、他人様の日記を勝手に読むなんて、礼儀知らずにも程があるわ」
「こうも人を叩く貴方に言われたくはありませんが」
「煩いわよこの居候の化け物!」

余計な事とわかっていながらつい口にしてしまう癖に自分で呆れながら彼は、先程と反対の頬に向かって翻る彼女の手に備えて目を強く閉じた。




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あきゅろす。
リゼ