愛情




西国上空に浮かぶ、化犬一族の屋敷ーー




その広大な屋敷のちょうど中央に位置する一室で、りんはごろんと大の字に寝転がり大きなため息を吐いた





殺生丸は今日も朝からどこかへ行っており、りんが朝起きた時には既にもういなかった





一方りんはというと、用意された朝食を摂ったあと、庭に出てみたり、新しく新調して貰った着物を開いてみたりと、なんとか時間を潰そうとしてみたが、やっぱりやることがない





そのため、今こうしてごろごろとただ時間が過ぎ行くのを待っているのである




一体朝起きてから、どれくらいの時間がたったのだろう




村にいた頃は毎日が忙しく、時間の経過もあっという間だった


しかし今は、恐ろしく時間の経過が遅く感じる





ここ最近は毎日こんな調子であるのだから、ため息の一つも出てしまう




この屋敷に来てからはなに不自由なく暮らせているが、もともと働き者のりんにとって、今の状況はなんとも落ち着かないものである。




りんは痺れを切らしたようにさっと起き上がると部屋をあとにした。








ーーーーーーーーー








部屋を出てりんが向かったのは、以前案内してもらったこの屋敷の厨房






そこをこっそり覗き込んでみると、たくさんの使用人たちがせっせと昼食作りに励んいた




もくもくと湯気が立ち篭る厨房には、りんの半分も身長がないような、小さな小妖怪たちが活気よく働いている



その容姿は、目玉が一つしかない者や二本のツノが生えている者、手足が8本ある者など様々であり、まさに人々が連想する"妖怪"の姿だった




と、そこに…







「りんさま?いかがなさいましたか?」






「あ、麗羅!」




厨房を覗き込んでいたりんの後ろから、麗羅が声を掛けてきた。







「あたしも、何か手伝うことはない?」





「え?」



りんの言葉に目を丸くすると、





「とんでも御座いません。昼食でしたらあと少しで準備が整いますので、今暫くお部屋でお待ち下さいませ」



そう言った麗羅に


「あっ、でもっ…」


とりんは言いかけるが、






「麗羅さまっ」


そう別の妖怪に麗羅は声を掛けられ、そのまま行ってしまった。









麗羅は忙しそうだな…




りんは小さくため息をつくと、しぶしぶその場を後にした。









ーーーーーーーーーー








そして自室へ戻る途中






「あっ」



りんは廊下を掃除する使用人たちを見かけた。




それはりんよりも年下に見える少女たちが、着物の袖や裾をたくし上げ、せっせと床や壁の掃除に励んでいる。






りんはそんな使用人たちに駆け寄ると




「ねぇねぇっ!
何かあたしにも手伝わせてよっ!!」



と声を掛けた。









「りんさまっ!?」



突然この屋敷の正妻に声を掛けられ驚く使用人たち。






「とんでも御座いませんっ…
りんさまにこのようなこと、させるわけにはいきませぬっ」




そう断られてしまい、りんはしょんぼりすると



「じゃあなずなはどこにいる?」



と首を傾げた。






「なずなは、今日は浴室当番で御座います」





「あ、そうなんだ…」




その答えに再びしょんぼりするりん。







なずなもお仕事してるんだ…








そうして結局、りんは大人しく自室へと戻った。








ーーーーーーーーーー








「やることないな〜」





りんは自室へ戻ると、再びごろんと寝転がりため息をついた。









「みんな忙しそう…」



天井を見上げながら小さく呟くりん。









そうして暫くすると、麗羅が昼食を持ってりんの部屋を訪れた。








「失礼致します」


麗羅が部屋に入ると、りんは大の字になってすやすやと眠っていた。








そんなりんに麗羅は優しく微笑むと、




「りんさま」


と静かに声を掛ける。








「んん…」



麗羅の声掛けにりんはゆっくり瞳を開くと、目を擦りながら起き上がった。







そうして運ばれてきた食事を食べながら、りんはふと思う






「いつもほんとに美味しいなぁ…」





そう小さく呟くと、




「ねえ麗羅っ!」



と顔を上げた。そして…






「あたし、お料理がしたいっ!」






「え?」





りんの言葉に目を丸くする麗羅。






「厨房に行って、ちょっとだけお料理がしたいのっ!みんなの邪魔はしないからさ!」




そう言って目を輝かすりんに、



「あまり、危険なことはして頂きたくないのですが…」



と困ったように麗羅は眉を寄せる。





「お願いっ!危ないことはしないからっ!」



そう両手を合わせて願いを請うりんに、麗羅は静かに息を吐くと


「わかりました」



とその願いを了承した。
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