お色気作戦と強さの釣り合い





まだ間昼間だというのに外は薄暗く、今にも雪が降り出しそうな雰囲気を醸し出す空。





そんな寒さと戦うように、部屋に置いた大きな囲炉裏はパチパチと火花を打っている。



それでもこの広い部屋全体を暖めるには小さく感じられ、りんは囲炉裏に寄り添うようにちょこんと座っていた。







パチパチという音が静かな部屋に響く中、囲炉裏の横に机を置き茶を啜るりん。







そんなりんの横で零羅は囲炉裏の中を突つきながら





「まだ部屋は冷えますか?」






と静かに質問した。











「うん…ちょっと寒いけど、これがあるから大丈夫」




そう言ってりんは囲炉裏に両手をかざす。












「お顔の色が白いように思えます。やはりもう二つほど、囲炉裏を増やした方が良さそうですね」







零羅はりんの答えとは別にその状態を察知すると、さっと立ち上がり優しく打ち掛けを掛けた。









「ありがとう…」









「わたくしは寒さを感じにくい体質ゆえ、寒い時は遠慮せず言って下さいまし」




そう言ってにっこり微笑んだ零羅。















そうして暫く二人とも黙ったあと、










「りんさま……」










零羅が静かに口を開いた。










そして……






















「あれから…殺生丸さまとはまだ……?」

























その問い掛けに、うん………、と小さく頷いたりん。
























あれから数日…











殺生丸は一度としてこの部屋に戻ることはなく、二人は一切口を利かない日が続いていた。










りんの前には現われず、屋敷内で会っても目も合わせようとしない…






















殺生丸がりんを避けているのは明白だった。

















「りんさま……」












零羅は思い詰めたような顔をするりんに苦しげな顔をする。












「やっぱり、あたしが間違ってるのかな……」











俯いたまま小さく言ったりんに






「難しいですね…」







と零羅は落ち着いた声で返した。














「でも…






りんさまの、誰かを犠牲にしてまで生きたくないというお気持ち…






わたくしにも理解できます」









そう言った零羅に



「えっ…ほんと……?」




と顔をあげるりん。












そんなりんに零羅はにっこり笑うと 、



「はい、」

と優しく頷いた。










そして…



















「しかしそれは、殺生丸さまも理解していることだと思います」














「えっ?」











微かに目を丸くしたりんを他所に零羅は言葉を続ける。











「我々家臣たちに、命をかけてりんさまをお守りしろなどという命令をすれば、どんな反応が返ってくるか、りんさまがどう思うか…













殺生丸さまは全てわかっていたと思います」












「それでも…









それでも殺生丸さまにとって、りん様のお命は他の何よりも大切な存在なのです。





















おそらくご自分の命よりも……」





















「…………………」






零羅の言葉に思わず黙り込むりん。
















「だからこそりんさまに守り刀を与え、家臣たちにあのような命令をした……











どんな手段を使っても、りんさまのお命を守ろうとしているのです」











「そのお気持ちだけは、どうかわかって差し上げてくださいまし…」












そう真剣に言った零羅に



「そっか…………」


とりんは小さく呟いて息を吐いた。














今まで殺生丸さまは、いつだってあたしを助けてくれた…








どんなときも……時には自分の命も顧みずに……














それなのにあたしは……

















「あたし……殺生丸さまに酷いこと言っちゃった……」













「りんさま………」












「やっぱり…ちゃんと謝らなきゃっ……」










そういって顔を上げたりん。




そんなりんに対し、零羅もにっこりと優しく微笑んだ。













と、その時ーーーーーー





















「あのっ……ちょっとええか…?」







襖の向こうから聞こえた声に、二人が目を向ける。










そして……












「なずな…?」





覚えのある声に零羅がその名を口にすると








「あっ…どうぞっ!」





とりんが答え、静かに襖が開いた。

















そして部屋に入ってきたのは、零羅が予想した通りの"なずな"だった。














なずなはゆっくりりんの前までくると、正座をして正面に向き合う。











そして……












「あの………」

















「この間は………ちょっと言い過ぎたわ……」














「えっ…?」






思わぬ言葉に目を丸くするりん。











そんなりんに、なずなは申し訳なさそうな顔で話を続けた。










「よう考えたら、命救ってもろうた相手に言う言葉やなかったな思うて……」














「あんたが庇ってくれへんかったら、あたしは今頃死んでたわ」











「ほんま…ありがとな……」










そう言って頭を下げたなずなに ううんっ… とりんは慌てて首を横に振る。









「りんの方こそ…何も出来ないくせにあんな出過ぎたことして……







みんなの立場とか、何も考えてなかった……」
















「ほんとにごめんね……」







そう言って眉をハの字にして謝るりんに、なずなは顔を顰めた。








「なんであんたが謝るんや、元はと言えば、あんた守らなあかんあたしらの責任やろ」










そう言ったなずなに、それは違うよ、と再び首を振るりん。














「そもそも人間のあたしが、このお屋敷にきたから……」










「みんなのことも…殺生丸さまの一族のことも…
まだなんにもわからなくて…」
















「りんさま…」



そう申し訳なさそうに顔を俯かせたりんに、零羅は目を細めた。















「だからっ…!これからもっといろいろ教えて欲しい!あたしは人間だから、弱くて力では負けちゃうけど…でもみんなの迷惑にはならないように頑張るからっ!!」













「あんた……」







そう明るく言ったりんになずなも思わず肩を落とす。

















そして……







「だから改めましてっ、これからもっといろんなことを教えてねっ?


えっと……なずな…?」










そう言って首を傾げながら片手を差し出したりんに








「あぁ…



なんでも聞きっ!」





となずなも胸を張ってその手を握った。












そんななずなに…



「こら、りんさまは殺生丸さまのご正妻さまですよ。もう少し言葉遣いを改めなさい」





と注意を入れる零羅。











しかし…











「いいのっ!」






零羅の注意をりんが制止した。




















「このままでいいっ!」











そう言ってニコニコと笑うりんに、りんさま…と少し困ったような顔をする零羅。












そんな零羅を他所に




「あたしなずなとは友達みたいになりたい!だからなずなも、あたしのことりんって呼んでね!」




と言って微笑んだ。


















「ふんっ……、あんたほんま変わっとるなぁ」





りんの言葉になずなは呆れたように言うと、






「まぁええわ。一応命の恩人やし、仲良くしちゃる!」






そう言って腕組みをして笑った。
















そうして楽しそうに笑い合う二人の姿に、零羅も肩を落として優しく微笑んだ。
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