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暖かな日差しが差し込んだ自室で、りんは甘い菓子を頬張りながら零羅と昼間のお喋りを楽しんでいた。
昔の思い出話や些細な日常の変化など、零羅にとっては明らかにどうでもいいであろう話も優しく笑顔で聞いてくれ、それが堪らなく嬉しいりんはどんどん話を弾ます。
と、そんなときだった……
っーーーーーーーーー!!!?
りんの話を笑顔で頷いていた零羅が、突然眉根を寄せ何かの気配を探るように辺りを見渡し始めた。
その不審な行動にりんは ん? と首を傾げると、
「どうかした??」
といって不思議そうな顔をする。
そして…
「りんさまっ…」
零羅はそう言って食べていた菓子などを脇に寄せると、りんの手をとり立ち上がった。
「今すぐここを離れ、安全な場所へ移動しなければなりません」
そう真剣な表情で言い放った零羅に
「えっ?どうして?何かあったの?」
と目を丸くするりん。
しかし…
「説明している暇はありませんっ!とにかくわたくしの後に付いて来て下さいませっ…」
と言って零羅はりんの手を強く握ると、そのまま手を引いて勢い良く部屋の戸を開けた。
そして戸が開けられると、既に廊下では多くの使用人たちが右往左往に動き回っており、明らかにその様子がおかしい
「ねぇ零羅っ!何があったのっ!?」
りんは状況を掴もうと再び質問したが、零羅はそんな声も聞こえていない様子でただ只管に廊下を駆け抜けて行く
と、そこに…
「零羅っ!!」
「六さまっ…!なずなっ…!」
背後から名を呼ばれ振り返ると、型体の良い中年の男(六)と高い位置で短い髪を結わった少女(なずな)がこちらに向かって走ってきた。
「正門に兵を招集したが、僅かな時間稼ぎにしかならんっ…」
六は上がった息を整えながらそう言うと
「あいつら殺生丸さまの留守を狙ってきたんやっ!!」
となずなが吐き捨てるように言い放つ。
「ご母堂さまには報告したっ?何かの助けになって頂けるかもしれないわ!」
「ダメや!ご母堂はんも昨夜から屋敷開けててな…どこにいったのかもわからん!!」
「そんな……」
零羅はその答えに深刻そうな表情で呟いた。
「そこまで計算してきたんやろ!!あいつらあたしらしかいないこの時を狙って……」
「今はもう、そんなことを言ってる場合じゃないわっ…」
そう言って零羅はなずなの言葉を遮ると、
「あたしは正門へ行って何とかしてみるからっ、なずなはりんさまをお願いっ!」
とりんの背を軽く押しなずなの方へ促した。
「えっ!?なんとかするって絶対無理やでっ!!?あいつらあたしらの話なんか聞かへんっ!!自殺行為やっ!!」
零羅の言葉に驚きそう言って眉根を寄せるなずな。
しかし…
「それでもっ…りんさまに手を出させるわけにはいかないでしょっ!!!!」
「……………………っっ」
その強く放たれた言葉に六となずなは一瞬言葉を詰まらせると、
「せっ……せやなっ………」
そう決心したようになずなが深く頷いた。
そして……
「頼んだわよっ…!」
そう言い残し零羅は六と共に廊下を走り去って行った。
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二人が走り去ると同時に、
「ほな行くでっ!!」
と言ってりんの手を取り走り出したなずな。
りんは未だ状況を掴めていなかったが、手を引かれるままに足を動かした。
そしてふと、その後ろ姿を見つめながらあることに気が付く。
それは以前、自分の悪口を言っていた少女…
あの少女こそ、今りんの手を引き目の前を走っているこの少女だ。
この色鮮やかな着物にこの髪型…あの関西なまりな口調といい間違はない。
しかしなぜこの子がこんなにも………
りんはそんな疑問を抱きながら、取り敢えずなずなの後に続いて必死に足を動かした。
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