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ーーーーー睦月(むつき)





世の中は新年と呼ばれる正月を迎え、真冬の本格的な寒さに包まれる今日。


西国上空に位置する巨大な屋敷では、その冷えた廊下をりんがパタパタと足を進める。



そして…









「なずなっ!!」



そう明るく、この屋敷の女中に声を掛けた。











「おぉ!りんっ!」


背後を振り返りそう返事を返すなずな。






そんななずなにりんは更に歩みよると、

「新年のお祝で八郎たちが用意してくれたお菓子があるんだけど、一緒に食べないっ??」

と、嬉しそうに口を開いた。





しかし…


「あぁ…」

そう言ってなずなは表情を曇らせると、



「悪いな、りん。
今から女中たちと一緒に、新年の初詣に行くところなんよ」

と申し訳なさそうに答える。




そんななずなに


「そっか…」

とりんが眉を下ろすと、


「りんも…一緒にいくか?」


となずなが優しく言葉を返した。




しかし…














「あたしは…、行けないや…」


りんはなずなの誘いにそう言って苦笑いを浮かべると、



「みんなと楽しんできてっ!」

と言ってにっこり笑う。







そんなりんに

「そうか…」

と、なずなは眉を寄せつつも、




「土産、こうてくるからなっ!」


と言って笑った。









「うんっ、ありがとうっ!!」






そうしてなずなと分かれたりんは、元来た廊下を戻り自室へと向かったーーーーー













大陸の妖たちとの戦いが終わり、屋敷には普段通り平穏な時間が流れ始めた中、殺生丸はその一件以降りんの外出を禁じるようになっていた。



短い期間でりんを二度も失いかけ、殺生丸の心情を考えれば当然の決断なのかもれない。


全てはりんを失いたくない、その一心にあるということをりん自身もよく理解しているため、その決断に対しては何も言わずに従った。


外出先で危険な目にあっても、自分の身すら守ることができない。
結局は彼に迷惑を掛けてしまうことになるのだ。
だからこそりんは、屋敷に篭ることで彼の負担を少しでも減らせるのならば…、そう考えていた。






正月というのもあって屋敷の者たちは皆様々に外出しており、普段に比べ随分と静けさが広がっている。



そんな中、自室の戸に手を掛けたりんに、


「りんさま、」

とちょうど彼女の元を訪れた麗羅が声を掛けた。







ーーーーーーーーーーーーーーー









「どうぞ」




りんの自室にて、いつものように盆に乗った茶と菓子をりんの前に差し出す麗羅。




その差し出された菓子を見て、りんは思わず

「うわぁ〜!!きれ〜い!!」

と感嘆の声を上げた。




りんの前に差し出されたものは、紅白に彩られた花の形をした練切の菓子。





その普段とは違う雰囲気の菓子に、

「いつにも増して豪華な感じだねっ!」

と目を輝かせた。






「新年の祝い事ですから、料理人たちが工夫凝らして作りました。
見た目も鮮やかで、縁起がいいですね!」


そう言う麗羅に

「うんうんっ!」

とりんは大きく頷くと、


「頂きまーすっ!」

と言って黒文字で小さく切った菓子を口に運んだ。


そして…





「わぁ〜!!
とっても美味しいー!!」

そう言いながら思わず頬に手を当てると、



「麗羅も一緒に食べようよっ!」


と、菓子の乗った皿を差し出した。







そんなりんに

「いえ、わたくしは結構で御座います」


と麗羅は遠慮がちに答えると、


「それより、今日はなずなの姿が見えませんね?
こうゆう時は必ず嗅ぎつけてくるのに」


と、普段りんが菓子を食べる時には必ずと言っていいほど一緒にあやかって同席している女中の名を口にした。





そんな麗羅に


「なずなは初詣に行くって、さっき出かけて行ったよ」

と答えるりん。




そんなりんの表情が若干寂しさを含んでいることを敏感に察した麗羅は、


「そうですか…」

と返答すると、


「やはりわたくしも、お一つ頂いて宜しいですか?」

といって笑った。




そんな麗羅に


「えっ?」

とりんは一瞬驚いたように目を丸くしたが、たちまち笑顔を溢れさせると



「うんっ!!一緒に食べようっ!」


といって笑い返した。







そして…


「頂きます」


そう言って麗羅は丁寧に菓子を切り分け口に運ぶと、


「んんっ!これはとても美味しいですね!
高級な味が致しますっ!」

と言って幸せそうに微笑んだ。




そんな麗羅の反応にりんも堪らず嬉しくなり、


「そうでしょっ!!
いつも美味しいけど、今日のは特別美味しいよねっ!!」

と言って身を乗り出す。




そうして二人は他愛もない会話に花を咲かせながら茶と菓子を平らげると、りんがふと

「ありがとね、麗羅」

と感謝の言葉を口にした。










「???」


そんなりんに何のことかと首を傾げる麗羅。




そして

「一緒にいてくれて、」

そう言葉を続けたりんに、麗羅はすっと眉を寄せた。







「麗羅、普段は甘いものなんて食べないのに、あたしに気を遣って付き合ってくれたんでしょ?」


りんはそう言って苦笑いを浮かべると、

「ありがとう!」

と言ってにっこり笑う。





そんなりんに


「りんさま…」


と麗羅は顔を歪めると、


「そんなこと、仰らないで下さい」


そう優しく言葉を返した。






「わたくしは、りんさまに気を遣った覚えなど御座いません。
わたくしはただ、りんさまの笑ったお顔が見たかっただけに御座います。
ですからそんな顔せず、笑って下さいまし」

そう言って優しく微笑んだ麗羅にりんも釣られるように顔を緩ませると、


「ありがとうっ…」


と言って嬉しそうに笑った。
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