狐の恩返し










肌寒い空気が辺りを包み、茶色に色づく木々たちは、もう時期訪れる冬を感じさせる。





そんな中、西国の屋敷からほど近い人里では、今日もりんが料理長の八郎らと共に買い出しに来ていた。





りんは麗羅、なずなと共に買い物を終えると、別行動で買い物をしていた八郎の帰りを元来た野原で待つことになった。










「ったく八郎のやつ、いつまで買い物しとるんやろ」



なかなか戻らない八郎にそう文句を漏らすなずな。







そんななずなに


「今日は珍しいものが多く売られてるって、八郎が張り切ってたから。もう少し待ってあげましょう」



そう言って麗羅が優しく宥めた。







そんな二人を他所に


「ねぇ見てっ!向こうに綺麗なお花がたくさん咲いてるよっ!」


と、少し離れた場所をりんが指指すと、



「ちょっと行ってくるねっ!」


と走り出した。









「あまり遠くには行かないで下さいねっ」




既に走り出しているりんに向かって麗羅がそう声を掛けると、






「はーい!」


と呑気な返事を返すりん。










りんは麗羅たちから少し離れた林の近くまで来ると、美しく咲き誇った野花たちに


「わぁ〜!!」


と感嘆な声をあげた。







「きれーい!お屋敷に少し摘んで帰ろう!」


そう言ってりんは早速しゃがみ込むと、指なぞりしながら選別した花を摘み始める。







と、そこに…










キュウゥ……キュウキュウゥ……











「ん?」











草むらの中から何かの鳴き声が聞こえ、りんはそちらに目を凝らす。













キュウゥ……キュウゥ……












「あっ…」





良く見るとそこには、小さな小狐が片足を怪我して横たわっている。










「お前、怪我してるの??」



りんは急いで小狐に駆け寄ると、優しく頭を撫でながら片足に目をやった。







骨は折れていないようだが、傷口からの出血が多い。







血を止めなくちゃっ…!!






りんはそう思い立ち周囲を見渡すと、はっとして立ち上がった。








「こうゆう林の近くには…」






そう言いながら林の木々を掻き分ける。







そして…










「あったっ!!」





りんは一枚の大きな葉を摘むと、小狐の元へ戻り怪我をした足に巻き付けた。




その葉は簡易的な止血効果があり、前いた村では応急処置として使用していたものである。









「今はこれくらいしかできないけど…」




そう言いながら自身が付けていた髪結いを解くと、葉の上から優しく縛って固定した。







「早くちゃんと手当てしなくちゃっ!」








そう言い立ち上がったところで…







「りんさまっ!」





麗羅がりんを呼びに来た。











「八郎が戻りました。屋敷に帰りましょう!」





そう言って優しく微笑む麗羅に





「麗羅っ!今ここでっ…」



とりんが慌てた様子で小狐を振り返る。





しかし…










「あれ…?」







「どうかなされましたか?りんさま」






りんが振り返った先には小狐の姿はもうなく、ただ美しく咲き誇る花畑が広がっているだけだった。








きょろきょろと何かを探すりんに




「なにかありましたか?」



と不思議そうに首を傾げる麗羅。









そんな麗羅にりんは少しがっかりしたように眉を落とすと、 ううんっ!と首を横に振
り、


「なんでもない!」

と言って笑った。











ーーーーーーーーーーー






それからしばらく経ったある日ーーー







「里帰り?」







「あぁ!」






自室でなずなと茶菓子を摘んでいたりんはそう言って首を傾げた。







「久々に帰ろう思ってな。もうあの場所には誰もおらへんから、特に用もないんやけど。
馴染みの食べ物なんかもあるし、十数年に一回ぐらいは帰っとるんよ。」








「十数年に一回……」








なずなの言葉に思わず苦笑いを浮かべるりん。







十数年に一回を、まるで数ヶ月に一回といった勢いでさらっと言われ、一体目の前にいる同い年ほどの娘は何歳なのだろう…
と考えを巡らせる。








人と妖怪の時間の感覚の差に思わずため息を吐きそうになるのを堪え、





「いいね!!里帰り!」


とりんはにっこり笑った。







すると…











「なら、一緒に来るかっ?」










「えっ??」





なずなの提案に一瞬目を丸くすると、




「いいのぉ!!?」



とりんは身を乗り出した。







「当たり前やっ!一人で行ってもつまらんしなっ!!」








「やったぁ!!!」



そうして二人の話が盛り上がっているところに…








「それは難しいかもしれませんよ…」







「麗羅っ!」




茶が乗った盆を持って部屋を訪れたのは麗羅。









「あなたもわかっているでしょう。
あそこは、殺生丸さまの納める地ではない」




なずなに向かって落ち着いた様子で言う麗羅に、えっ? とりんは目を丸くする。







「そんなん関係ないわっ!
あそこはうちが生まれ育った地やで!?
そこに帰ってなにが悪いねんっ!!」





「あなた一人で行くのと、りんさまを連れて行かれるのとでは訳が違うでしょ。
何かあったらどうするつもり?」



強く言い返したなずなに麗羅もぴしゃりと言い放つ。





「何にせよ、殺生丸さまの許可なしにりんさまをお連れすることはできないのだから。まずはそちらに話を通すべきなんじゃない?」


その麗羅のもっともな正論に、返す言葉がなく明らかにムスッとするなずな。



そんな彼女に変わって、



「じゃありん、今夜殺生丸さまにお願いしてみるよっ!もしかしたらいいって言ってくれるかもしれないし!!」


と人差し指を立てて得意気に言った。
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