墓参り





春らしい暖かさに包まれた今日は、なんとも居心地の良い天気である。
辺りには多種多様な花が咲き誇り、りんにとってはまさに最高の季節だった。




「あらりんちゃんっ、何してるの?」

「かごめさまっ!」
振り返るとそこには薬草の入った籠を抱えているかごめ。


「お墓に手向けるお花を摘んでるんです!」

「お墓って、桔梗の?」

「はい、あと奈落の方も行ってこようと思います!」

「そう、ならあたしも行こうかしら。最近行ってなかったし。」

「じゃあ一緒に行きましょうよ!」
そう言って嬉しそうに立ち上がったりんに、そうね。 とかごめはにっこり笑った。









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「わぁ、相変わらず桔梗のお墓参りに来る人は多いわねぇ。」
桔梗の墓の前に置かれた沢山の花束見てかごめが溜め息混じりに言う。

「やっぱり桔梗には敵わないな〜。」
そう複雑そうな顔で言うと、墓の前にしゃがみ込み花を手向けた。

「本当に凄い方だったんですね。」
隣にしゃがんで言ったりんに、
「えぇ…。」
と目を細めるとそのまま両手を合わせ瞳を閉じた。
それに続きりんも静かに両手を合わせ目を閉じる。



暫くしてりんが目を開くと、横にいるかごめが墓に置かれた花束をじっと見詰めていた。

「どうかしましたか?」
りんが不思議そうに聞くと、
「ううん。なんでもない。」
そう言ってかごめはにっこりと笑った。





このお花…
昨日犬夜叉が持ってたやつ…。





かごめの視線の先にある一際美しい花束は、昨日犬夜叉が手にしていたもの。
弥勒夫婦の子供たちに貰ったのだとばかり思っていたが、どうやら違かったらしい。





犬夜叉…
来てたんだ…。




「ねぇりんちゃん。」

「はい?」

「お墓って、誰のためにあるものだと思う?」

「え?」
突然の質問にりんはきょとんとして首を傾げた。

「あたしはね、お墓って、亡くなった人のためにあるものじゃないと思うのよ。」

「え?じゃあ…。」
誰のためにあるんですか?と聞いてきたりんにかごめは優しく微笑む。


「お墓は…、きっと残された人のためにあるものだと思う。」


「残された人のため…?」


「そう。だってお墓に来ると、亡くなった人を感じることが出来るでしょ?もうこの世にはいないのに、なぜか会いに来れたような…通じ合えたような…。
そんな気にさせてくれるから、こうしてみんなお参りに来るんじゃないかな?」


かごめの言葉に、りんは黙って桔梗の墓を見つめた。
りんは桔梗とほとんど関わりも無く、どんな人かもよく分からない。
それでもこの墓に来たら彼女のことを思わずにはいられなかった。
骨も何もない形ばかりの墓だとわかっていても…。


これが、亡くなった人を“感じる”ということなのだろうか?
だとしたら自分なんかよりもずっと深く桔梗と関わった楓や犬夜叉は、もっともっと多くのことを感じているのだろうか?
もしそうだとしたら…。




「りんも…、感じることが出来るでしょうか…?」

「えっ?」
りんの質問に今度はかごめが首を傾げた。




そっか…。
りんちゃんの家族って…。



かごめはこちらの時代に戻ってきたとき、始めてりんの過去を知った。
そして殺生丸との出会いも…。
それを聞いたとき、殺生丸がりんを大切にする理由が何と無く分かった気がする。
それほどまでにかごめは、りんの過去を残酷だと感じていた。

あの花のような笑顔も、いつも明るく優しい心も、全てがその過去の上にあるのだと思うと胸が痛む。



かごめは黙ったまま桔梗の墓を見つめるりんに口を開いた。
「りんちゃんの家族のお墓は…、前いた村にあるのよね。」

かごめの質問に はい。とりんが静かに頷く。



「やっぱり行きたい?」
その質問にりんは顔を上げると
「そりゃあ行きたいです。でも…。」
と言って顔を曇らせた。


「もうあの村にどうやって行くのかもわからないし。まだみんなのお墓があるとも限らないから…。」

そう言うりんに、
「そんなの、行って見なきゃわからないじゃない!」
とかこめは明るく笑った。


「でも行き方もわからないし…。」

「まったくりんちゃんは…。」
かごめは呆れたような顔をすると
「いるでしょ?あなたのことを誰よりも大切にしてる妖怪がっ。」
と言って顔をニヤつかせた。


「えっ?まさか殺生丸さまですかっ!?」
驚くりんに 他に誰がいるの? と得意気なかごめ。

「殺生丸と始めて会ったのは村の近くだったんでしょ?」

「そっ、そうですけど…。」

「だったら、連れて行って貰えばいいじゃない!」
当然のように言うかごめに そんな…。 とりんは浮かない顔をする。


「もう随分前の話だし、さすがに殺生丸さまだって覚えてないと思います…。それに…。」

「それに?」

「あまりに図々しすぎますよ。ただでさえあたしの我儘聞いて会いに来てくれてるのに…。」
かごめはそんなことを言うりんに思わず深いため息を吐いた。

「りんちゃん本当わかってないな〜。」

「えぇ?」

「殺生丸はりんちゃんの我儘聞いてやってる、なんて絶対思ってないわよ!むしろりんちゃんのお願いなら何でも聞いてくれそうな気がするんだけど…。」
呆れ顔で言うかごめにりんは目を丸くした。

「そんなはずないですよ!りんだって叱られることあるし。」

「まぁいいから!とりあえず一度だけ頼んでみたら?それで無理だったらまた考えましょうよ!」
かごめの提案に、りんはうーん。と悩むと
「じゃあ一度だけ…。」
とあまり納得行かないと言った顔で渋々了承した。
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