墓参り





それから数日間。
りんは今か今かと殺生丸を待ち侘びる気持ちと、もし頼んでみて断られたらどうしよう…。という不安な気持ちが交差していた。




そしてやって来た殺生丸。
りんは一息吐くといつもの丘へと向かった。








「殺生丸さまっ!」
そう言って近付いて来るりんの顔は、いつものはち切れんばかりの笑顔ではなく。
殺生丸は思わず眉を寄せた。


そして普段通り殺生丸の隣に腰を下ろしたりん。
しかしいつものお喋りがなかなか始まらない。
不審に思った殺生丸がふとりんに目を向けると、りんは顔を俯かせ何かを考えているようだった。


殺生丸は再び眉皺を寄せ
「…りん。」
とその名を呼ぶ。


「えっ?」
はっとしたようにりんは顔を上げると殺生丸を見上げた。

「何かあったのか?」

「え?」
その質問に思わず首を傾げる。


「変わりはないかと聞いている。」

再度問われた質問に あぁ。と小さく声を漏すりん。



やっぱり図々しいよね…。
やめとこうかな…。



「…りん。」
何も言わないりんに殺生丸が再びその名を呼んだ。



どうしよう…。
どうしよう…。



りんがそんなふうに迷っていると…



「早く言え。」
とうとうそう言われてしまった。


「えっ、えと…、その…。」
漸く口を開いたりんを殺生丸はじっと見詰める。


その金色の瞳はりんを捉えて離さない。
りんは吸い込まれそうになる感覚に耐えながらなんとか言葉を繋げた。



「あのね、一応聞くだけだから、嫌なら嫌って言ってね!」

そう念を押すりんに いいから早く言え。 と殺生丸は先を促す。



「じゃあ、言うよ…。」
りんは意を決したように大きく息を吸った。
そして…。








「あたし、前いた村に行きたいの。」



「………。」




「前いた村…?」

「そう、あたしと殺生丸さまが始めて会った場所。」
りんの言葉に殺生丸は顔を顰めた。




りんと始めて会った場所…。








あれは、私が深傷を追って天生牙に守られたとき…。




あれだけ嫌っていた天生牙に救われ、私の誇りに傷が付いた日…。




まさに最悪の日だ。




そんな日にりんと出会うとは…。

いや、そんな日だからこそ…。


もしあのとき深傷を追わなきれば、まず私とりんは出会わなかっただろう。
例え出会ったとえ、私がりんを気に掛けることなどなかった。
むしろ周りをうろちょろされれば、目障りだと言って切り裂いていたかもしれない。



そう考えるとあの日は…。





「いやっ…別にいいんだよっ…!あたしも駄目もとで言っただけだからっ…!「…何しに行く。」

「えっ?」

「あの村に起き忘れたものでもあるのか。」
殺生丸の質問に、
「別に忘れ物したわけじゃないんだけどね。」
と言うりん。


ならなぜ今更?


りんはそんな殺生丸の気を察しゆっくりと話し始めた。

「あの村にはね、あたしの家族のお墓があるの。もうあれから行ってないから今はどうなってるかわからないけど…。」
りんの言葉に殺生丸は目を細める。



りんの家族…か。



思えばりんにも、家族と呼ばれる者たちがいたのだ。
あたかもりんは始めから一人だったと勘違いしそうになるが、りんには立派な家族という存在がいた時代が少なからずある。


あの村はりんにとって厄介者扱いされていた辛い思い出しかないと考えていたが、その反面愛する家族と共に過ごした掛け替えのない思い出も確かに存在する。



「あっ…、本当別に、忘れちゃったとかなら全然いいしっ!」
黙ったままの殺生丸にりんは慌てて口を開いた。



しかし…。




「私を誰だと思っている。」

「えっ?」

「いつだ。」

「えっ!?」
殺生丸の言葉に目を丸くするりん。


「殺生丸さま…連れて行ってくれるの…?」

殺生丸はじっと彼女の顔を見詰めた。


その瞳は肯定。
りんは忽ち表情を満面の笑みへと変えてゆく。


「いつでもいいよっ!殺生丸さまの都合がいい日でっ!」

「ならば明日だ。家にいろ。」
そう言う殺生丸に、りんは嬉しそうに はいっ。と返事をした。
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