津田屋の息子



大分離れたところまで来て、犬夜叉はりんを下ろした。



「ありがとう、犬夜叉さまっ。」
地面に足を付け犬夜叉に礼を言うりん。


「何もされてねぇーか?」

「うんっ!大丈夫!」
そうにっこり笑うりんに対し、犬夜叉は呆れたように深いため息を吐いた。


「まったく気を付けろよなっ。おめぇに何かあったら俺があいつに睨まれるんだからよぉ。」
本当やってらんねーぜぇ。と吐き捨てる犬夜叉に、 うふふ。 とりんは笑う。


なんだかんだ言いながら、犬夜叉さまはいつもあたしを助けてくれる。
そういう優しいところが、殺生丸さまと似てるんだよなぁ〜。




「ん?なんだよ?」
にこにこしながら見詰めてくるりんを犬夜叉が怪訝そうな顔で見下した。

「いえ、なんだか犬夜叉さまを見てたら、殺生丸さまに会いたくなってきましたっ!」

「けっ。あんな野郎と結び付けんじゃねーよ。」
犬夜叉はぶっきらぼうにそう言うと
「まっ、じゃあ丁度良かったんじゃねーか?」
と丘の方に目をやった。


えぇ? と言いながらその視線を辿るりん。


「あいつが来たみてーだぜ?」

「ほんとぉ!?」
溢れんばかりの笑顔で じゃあ行って来ますっ! と言うとりんはいつもの丘へ向かって走り出した。



その幸せに満ちた背中を見詰めながら一言。








「本当変わってるよな…。」


犬夜叉はそう呟き一人家へと帰って行った。








ーーーーーーーーーー








「殺生丸さまっ!!」
飛び切りの笑顔で駆け寄ってくるりんに殺生丸は顔を顰めた。



「…何をしていた。」

「えぇ?」
首を傾げるりんに
「犬夜叉と会っていただろう…。」
と付け加える。


「 あぁ! 」

りんは殺生丸の質問を理解し、
「さっき助けて貰ったの!」
と嬉しそうに笑った。


「助けた…?」

「そうっ!りんがまたあの男の子たちを怒らせちゃって、肩を掴まれたところに犬夜叉さまが来てくれたんだよっ!」
そう嬉しそうに話すりんに殺生丸は目を細める。



「また…?」

「ほらっ!前に話したでしょ?市で会った男の子三人組の話っ!」
そう言われ、殺生丸は自身の記憶を辿った。



確かにそんなような話を聞いた気もする…。



「あの人たちね、あれからずっとりんのこと探してたんだって!!」
おかしいよね。とクスクス笑うりんに、何もおかしくないと殺生丸は思う。


その男三人組とやらは確か、前回りんに腹を立てていた。
その後りんを探し続け漸く今日居場所を見付けたということならば、その肩を掴むだけで済んでいたとは到底考えにくい。




今回ばかりは愚弟に感謝すべきか…。




しかしそれにしてもこの匂い…。








「犬夜叉は、その男たちを始末したのか。」

「始末?」

「そやつらを殺したのかと聞いている。」
物騒なことをさらりと言う殺生丸に
「ううん、男の子たちには何もしてないよ?」
とりんも平然と答えた。


そして…


「犬夜叉さまはりんのことを抱き抱えて逃げてくれたの!」

りんのその言葉で、先程から殺生丸を不快にしていた匂いの原因を理解する。



普通にしているだけではまず付かないであろう匂いの濃さ。
犬夜叉は半分獣妖怪だからか、元々の匂いが強い。
そのため少し側にいるだけでもすぐその匂いが移ってしまう。


ましてやその腕の中などに収まってしまえばなおのこと…。








「りん。」
殺生丸はすっと立ち上がるとその名を呼んだ。

そんな殺生丸をりんは首を傾げて見上げる。

「なに?」





「立て。」

そう言われ素直に立ち上がると
「どうしたの?殺生丸さま。」
と不思議そうに尋ねた。




殺生丸はりんに向き直るとその頭を静かに撫でる。

その優しい手突きに比べ彼の表情は険しい。


りんが再び どうしたの? と口を開こうとしたその時、殺生丸は自身の毛皮を片手にそれをりんの顔に擦り付けた。

「え?どうしたの?」
未だ首を傾げるりんを無視し、殺生丸は自在に操る毛皮を顔から肩、肩から腕へと滑らせて行く。


そしてりんの足先まで滑り落ちたところで漸くその体から離した。



「今のなあに?」
素直に殺生丸のされるがままとなっていたりんが再び首を傾げる。
そんなりんの頭を殺生丸は優しく撫でた。




そして…。




「悪い気を清めた。」

そう言ってりんを見詰めるその瞳は先程と違いとても穏やかで、どこか満足気であった。

「うそぉー?りんいつの間にそんな気纏ってたんだっ!!」
そう何の伺いもないりんに、
「気を付けろ。」
と一言。


「はぁーいっ!」
りんは元気良く、説得力のない返事をしてみせるのだった。
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