お花見







りんはかごめたちが見えなくなるまで見送ると、向きを変え大きな桜の木を見上げた。




皆が帰り静まり返ったその場に、優しく少し肌寒い風が吹き通る。




りんは更に木へと近づくと、片手でその大木に触れた。



そしてゆっくりと瞳を閉じ、ただただ桜の匂いと頬を撫でる風を感じる。







その時ーーーー。


















サクッーーー………。



りんは背後に何かを感じ、ハッとして勢い良く振り返った。













「殺生丸さま…。」





りんが振り返ると、そこにいたのは殺生丸。





二人は暫く目を合わせた後、りんが口を開いた。






「来て…くれたの?」



「………」



りんの質問に、殺生丸は答えない。




しかしそんな殺生丸に、りんはにっこりと笑った。




「これ、殺生丸さまから貰ったやつ、着てみたんだけど…、どうかな?」


少し照れたように言うりん。




そんなりんを、殺生丸は目を細め眩しそうに見つめた。





「こんな高価そうな着物、やっぱりりんには勿体無いねっ!でもありがとうっ!!わざわざこれ、用意してくれたんでしょ?」




「似合っている。」




「えっ?」


りんは質問の答えになっていない殺生丸の言葉に、一瞬戸惑って頭上にハテナを浮かべた。





「その着物…。」


殺生丸が言い、りんが目を見開く。




「似合っている。」


殺生丸が再び言った。




「え…っ。」


あまりに意外な殺生丸の言葉に、頭が真っ白になるりん。




「えっと…、その…あの…。」



「花見は、楽しめたか?」


おどおどとするりんを他所に、殺生丸は桜の木を見上げながら言った。




「えっ…、ええと…、はいっ!!楽しめましたっ!」



「そうか。」



慌てるりんに比べ、どこまでも冷静な殺生丸。


そんな殺生丸を、りんは僅かに紅潮した頬で見上る。





殺生丸さまにあんなこと言われたの、始めてかも…。


そんなことを考えていると、殺生丸が不意に下を向き二人の目が遭った。





「っ………!!」



りんはドキッと肩を飛び付かせると、慌てて殺生丸から目を逸らす。


そんなりんの態度に、殺生丸は眉根を寄せた。





暫くの沈黙の後、耐えきれなくなったように再び口を開くりん。




「もしかして殺生丸さま、去年も来てくれてたの?」

りんは桜の木に背を向け、里を見下ろしながら言った。




殺生丸はりんの背を見つめたまま、何も答えない。




「そういえばっ、邪見さまは今日いないの?」


何も答えない殺生丸を、りんは振り返り質問を変えて聞いた。




「置いてきた。」



殺生丸の言葉に、りんは特に驚きも笑いもせず

「そっか。」

とだけ答えた。






再び訪れた沈黙。



そんな沈黙を破ったのは、またしてもりんの方だった。




「見てっ!」


そう言って殺生丸の後ろに目をやるりん。



りんの視線を辿ると、そこには先ほどの桜が夕日に照らされ輝いていた。




「きれい…。」



りんが思わずため息を吐く。




「昼間見ていた桜とは、全然違うねっ。」


りんが嬉しそうに言い、殺生丸も桜を見上げた。




「太陽に照らされる桜もきれいだけど、夕日に照らされた桜も凄くきれい…。」



りんはそう言い、うっとりとする。





殺生丸から見れば、昼も夕も変わらないただの桜。



春にだけ花を咲かし、あっと言う間に散りゆく儚い命。



そんな桜を、人は美しいと言い心を和ませる。


たかが花の木に、何を感じろと言うのか。


以前の自分なら、そう言って嘲笑っていただろう。




でも今なら…。





りんと言う儚い人間の少女に出会い、共に時を過ごしてきた今の自分なら…。









その想いが、なんとなく理解出来るような気がした。








儚いからこそ美しい。








この桜はまるで…。








「りん。」



「はい?」


りんは首を傾げて殺生丸を見上げた。




殺生丸は、そんなりんをただじっと見下ろす。




りんの頬が赤く見えるのは、この夕日のせいであろうか。





それとも…。






「どうしたの?殺生丸さま。」


りんが不思議そうに言った。






「もう時期暗くなる。そろそろ帰れ。」



殺生丸はそう言うと、りんから視線を外し遠くの空を見据える。





「はい。」

りんはそう言って、殺生丸に向き直った。




「今日はありがとうっ!着物も、すっごく嬉しかった!」




「…………。」



殺生丸は遠くに視線をやったまま、何も答えない。






「じゃあ、行くね!」


りんはそう言ってぺこりと頭をさげると、里に向かって歩き出した。






りんが大分小さく見える程遠くに行った頃、殺生丸はふと視線をりんの背に向ける。







りん………。





殺生丸は暫くその背を見つめた後、再び桜の木に目をやった。




殺生丸には強すぎる花の匂いが、その鼻腔を刺激する。



しかしその匂いの中でも、確かに感じることが出来るりんの匂い。







来年も、再来年も、


きっとりんは変わらず、花のような笑顔で桜を見上げるのだろう。







しかしその隣に自分の姿があるのは、










今年が最後かもしれない。








殺生丸はじっと両目を閉じると、その場の匂いを胸一杯に吸い込んだ。







まるでこの時を忘れぬように。










暫くした後、殺生丸は閉じた瞳を開くと桜の木に背を向けその場を飛び去った。



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