火花、散る







じんじんと降り注ぐ太陽の下で、額に滲む汗を拭いながらりんは野菜を洗っていた。
その隣には、いつものようにりんの手伝いをする秀介の姿。


二人は他愛もない話に花を咲かせながらせっせと手を動かしていた。







「それ、新しい髪飾りか?」

「あっ、そうだよっ!この間、殺生丸さまに貰ったんだっ!」
そう嬉しそうに言うりんに、しまった、と秀介は自分の発言を後悔する。



「また殺生丸さまかよ。」
そう言ってあからさまに嫌そうな顔をする秀介を他所に、りんは楽しそうにその髪飾りについて話し始めた。


「これ凄く可愛いでしょ?ほら、こうするとキラキラ光って凄く綺麗なんだよっ!」
わざわざ髪から取って秀介に見せるりん。
そんなりんに、秀介は正直うんざりしていた。


ここ最近、りんとの会話で殺生丸が出てこなかったときはない。
どんな話をしても、結局は殺生丸に行き着いてしまう。
そのときの、殺生丸の話をするりんが何よりも楽しそうで。

秀介はまったくもって気に入らなかった。


そして今、やっと別の話で盛り上がっていたところに再び“殺生丸さま”が登場したのだ。
それも秀介が自らその話を振ってしまったがために。


野菜を洗い終わり村へ帰ってくると、秀介は懐から一つの包みを取り出した。


「ほら、これやるよ。」
そう言って渡された包みを「なに?」と言いながら開けるりん。
中には見慣れない粉のようなものが入っていた。



「ほら、お前前に臭いの強い薬草は子供達が飲めないから大変だって言ってただろ?その粉を煎じる時に一緒に入れると、薬草の強い臭いが取れるんだ。」

「えっ!?本当に!?」
りんは秀介の言葉に驚いて目を見開いた。


「あぁ。俺も小さい頃使ってたらしいし、城の薬師から貰ったもんだから間違えねぇーよ。」

秀介の言葉に「えっ!?」と再び驚くりん。


「お城の薬師さまから頂いたの!?」

「あぁ。」
驚くりん比べ秀介は平然とそう言った。


「そんなっ、どうやって!?」

「城の将軍が俺ん家のお得意様なんだよ。だからそこの薬師とも繋がりがあってな。」
そう言う秀介に、
「へぇ〜!!」
とりんは感嘆の声を上げる。


「やっぱり秀介の家って凄いねぇ!!なんか住む世界が違うって感じしちゃう。」

「なんでそーなる?違くなんかねぇーよ。別に俺は俺だし。」

「でも、本当にりんなんかが貰っちゃっていいの?その薬師さまは、秀介が使うと思ったからくれたんでしょ?」

「さぁ。そんなこと気にすんなよ。」

「でも…。」
そう言ってなかなか納得しないりんに、秀介はとうとう「なんでだよっ。」と声を上げた。


「なんで、“殺生丸さま”から貰うものは素直に受け取って、俺があげるもんは受け取れねぇーんだよ。」
いつもより低い声で明らかに怒っている秀介にりんは驚いて目を丸くする。

「そんなっ…、りんは殺生丸さまにだっていつも遠慮してるし…、秀介だからってわけじゃ全然ないよ?」
そう少し悲しそうな顔で言ってくるりんに秀介はそれー以上責めることもできず、諦めたように小さなため息をついた。


「まぁいい。それより、俺が前言ったこと覚えてるか?」


「前言ったこと?」


「その殺生丸って妖怪に、俺も会わせろって話。」

秀介の言葉に、あぁ!と思い出したように声を上げるりん。


「すっかり忘れてたよ!確か前殺生丸さまに聞いたら…


“死ぬ覚悟があるなら来い"

って言ってたかな?」
苦笑い気味でそう言うりんに

「は?」
と覚めた反応の秀介。



そんな秀介にりんはくすくすと笑うと
「だいじょーぶっ!殺生丸さまはすっごく優しいから、絶対そんなことしないよ!だから心配しないでね!あでもっ、あんまり喋らないから聞いてないのかなって思うかもしれないけど、ちゃんと話は聞いてくれるからねっ!」
そう楽しそうに話すりんに、
「面白れぇじゃねぇーか。」
と秀介は口角を上げた。


「次来た時、その次はいつ来るのか聞いとけよ。その時俺も一緒に行くから。まぁ死ぬ気なんざねぇーから覚悟もできねぇーけどな。」
そう言って笑う秀介はまるで殺生丸に喧嘩を売っているように見える。


しかしりんは
「うんっ!わかった!!」
と嬉しそうに頷いた。
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