嵐の予感







「これでいいかな〜?」
りんは自身の格好を見渡しながら眉間に皺を寄せた。




ーーーーーーーーーーーー








話が戻ること一日前、
いつものように秀介の手をかりながら薬草摘みをしてたりん。
そこで話題が秀介の家の話になったところ、彼女がふと発した一言。




「今度秀介ん家行ってみたいな〜。」



その何気無い一言に
「じゃあ来いよ。」
と秀介が軽く了承した。




さすがのりんも豪商一族の家にのこのこ行けるはずがないと遠慮したものの、別に構わない。 と呆気なく返されてしまい…。
それでも遠慮するりんが気に入らなかったのか、秀介は
「明日こい。迎えに行く。」
とだけ言い残し家へ帰ってしまった。



さすがはお金持ちのお坊ちゃんである。
一度言い出したことは何があっても貫こうとする強引さは始めて会ったときから少しも変わらない。








りんは深いため息を吐くと再び自分の格好を見渡した。

本当にりんなんかが行って大丈夫かな…?


そんな不安が過る中、
「なんだりん。今日は随分目か仕込んでおるなぁ。」
やたらと着替えの長いりんを不審に思い楓が声を掛けた。

「殺生丸殿と会う約束でもしておるのか?」
そう言われ、なんだか急に恥ずかしくなったりんが頬を紅く染める。


「いっいえ、今日は友達の家に行くので…。」

「友達?さきか?」

「いやっ…、さきじゃなくて…。「おいりんっ。迎えに来たぞ。準備出来たか?」
外から聞こえた声に、 秀介っ。 と言ってりんは家から出る。


「おうっ、行くぞ?」

「うっうんっ…。」
そう言って二人が出発した後、りんの後に続き楓も家から出てきた。
そしてその二人の後姿を見て目を丸くする。






「あっ…あれは…。」
楓はそこで、漸くりんが目かし込んでいた訳を悟った。








「りんも、年頃になったのぉ。」
そう微笑ましそうに二人の背中を眺めたのも束の間、この光景をあの大妖がみたら一体どうなるだろう…。

そんなことを想像してしまい楓は思わず身震いした。








どうかあの妖にはばれないように。








そう願わずには言われなかったのである。








ーーーーーーーーーーー








一方秀介とりんは市の中を歩いていた。

普段と変わらず、市はとても賑やかでりんの心を踊らせる。


ただ一つだけ違うこと。
それは通り縋る人々がやたらとこちらを見てくること。
そしてその中には軽く頭を下げて行く者もいるということだった。




やっぱり秀介って凄いんだ…。

りんはふと前を歩く秀介を見詰めた。
相変わらず高そうな着物を着ていて、歩き方から何まで全てが自分と違うような気がして。
これが“身分の差”というものなのだろうか。




やっぱり帰ろうかな。


そんなことがふと頭を過った時ーー。




「着いた。」
そう言って秀介が足を止めた。


「ここだ。」
秀介が振り向いた背後には、それはそれは立派なお屋敷…。


「え…。ここ…?」
りんは秀介の後ろに建つその屋敷を見上げて言葉を失った。



まずその瞳に飛び込んできたのは大きく立派な門。
その門の柱には“津田"と彫られた表札があり、やはりここなのだと再認識させる。


秀介はずかずか屋敷へ入って行くと、未だ自宅を見上げるりんを振り返り 早くこいよ。 と一言。
その言葉にふと我に帰ったりんが慌てて側まで駆け寄った。


「この家は仮だから、そんな広くはねえが。」
そう言いながら広い庭の中を進んで行く。


左右に広がる雄大な庭。
これのどこが小さいのか。まったく理解出来ないままただただ目を丸くするりん。
自分の住んでいる家よりも遥かに広いその庭を奥まで進むと、漸くこの屋敷の玄関に辿り着いた。



「今帰った。」
秀介が家の中へ入ると、りんも お邪魔します…。 とそのあとに続く。


すると屋敷の奥から
「お帰りなさいませ秀介さま。」
と一人の女性が出てきた。
女性は秀介の隣にいるりんに気付くと驚いたような顔で
「お客様ですか…?」
と聞いた。


「あぁ、名前はりんだ。 りん、こいつは使用人の香穂。」
そう言って秀介が軽く二人を紹介する。


「あっ…どっどうも…初めまして、りんと申します…。」
りんが辿々しく挨拶すると、
「こちらこそ初めましてりんさま。使用人の香穂と申します。」
香穂は丁寧に頭を下げた。


「こっちだ。」
そう言って屋敷の中へ入って行く秀介にりんは草履を脱ぐと慌ててその後を追った。
- 31 -

[*前へ] [#次へ]

戻る
リゼ