初潮








まだまだ冬の寒さが残る今日、りんは一人薬草を摘みに出掛けていた。

籠にいくつかの薬草を入れたところで、りんは自身の腰を摩る。
なんだか今日は朝から気分が悪く、身体が怠い。



風邪でも引いたかな?



そう思い早めに家へ帰ろうと立ち上がったその時ーー。








「えっ…?」
りんは自身の片足に違和感を感じ着物を捲った。



そして…。








「ひぁっ…!」
片足を伝う赤いものに小さく声を上げる。


「血…?」
良く見るとそれはりんの秘所から足首にかけて細く伸びていた。



「………っ!!」

思わず捲っていた着物を元に戻し慌ててそれを隠す。



なにこれ…どうしよう…。


りんは取り敢えず家に向かって走り出した。








ーーーーーーーーーーー








「どうしたりんっ?お前顔色が悪いぞ。どこか具合でも悪いのか?」
真っ青な顔をして帰って来たりんに楓が心配そうに尋ねる。



「かっ…楓さま…あたし…。」
りんは泣きそうな顔でことの次第を話した。








「そうか。ならば取り敢えず身体を清めて来い。今の時期では水がちと冷たいかもしれぬが、そのままというのも嫌だろう?」
未だ顔色の悪いりんに比べ、楓は至って冷静に着物と手拭を彼女に渡した。


「は…はい…。」
楓の言葉に頷くと、りんはそれらを受け取り家をあとにした。








りんが家から出て行くと、楓は一人深い溜息を漏らす。



「りんが…、もうそんな歳か…。」
考え深そうにそう呟き、楓は部屋に布団を敷き始めた。








りんが家へ戻ると、敷かれた布団の隣で薬草を煎じる楓の姿があった。

その背中に向かって
「帰りました。」
とりんが呟く。

「おぉ、りん。布団を敷いといた、まずは横になれ。」
楓にそう言われ、りんは草履を脱ぎ部屋へ上がると布団に足を入れた。


「これを飲みなさい。少しは楽になるじゃろう。」
そう言って差し出された薬草を素直に飲み干す。
そして…。



「楓さまっ、あたし、何かの病気にかかってしまったのでしょうか?」
りんは不安気に楓を見つめた。

「大丈夫じゃよりん。これは病気ではない。」
その言葉に、 じゃあ…。 と言葉を繋げる。

「“月のもの”のことはお前も知っておるじゃろう?それが来たのだよ。」

「“月のもの”…?」
りんは思わず聞き返した。

「子供を産める女には、月に一度月のものがやってくる。そなたももう、子を成せる身体になったということじゃ。」

楓の言葉に元々大きな瞳を更に見開いたりん。




月のもののことは知っていた。
いつかは自分の身にも訪れるということも。
しかしいざ本当に起こるとなかなか実感が湧かないというのが現実で。



自分が子を成せる身体になった…?



りんはなんだか誇らしいような、それでいてなんだか恥ずかしいような、掴み所のない焦れったい気分だった。




「取り敢えず今日はもう休んでおれ。」
そう言ってぼーっとするりんに布団を掛ける楓。

りんは素直に横になると静かに目を閉じた。








ーーーーーーーーーーー








その日の夜。




楓は膨大な妖気を感じ取り目を覚ました。




「やはり来たか。」
そう言って家から出ると、そこには月明かりに照らされる殺生丸とその隣に邪見。


「りんの匂いが変わった。」

殺生丸に言われ、楓はりんを起こさぬようその側まで歩み寄り口を開いた。



「りんは、子を成せる身体になったのじゃよ。」
その一言に、逸早く反応したのは邪見。


「なにっ!?りんが…子供をじゃと!?」

「そう驚くことでもなかろう。りんぐらいの歳ならば何らおかしくはない。」
驚く邪見に対し至って冷静な楓。

しかし邪見は、あのりんが…。 と信じられないといったような顔で呟いた。


「りんももう12だ。いつまでも子供のままなはずがなかろう。りんはこれからもっと成長するぞ。子供から大人へ、女へとかわってゆく。」
そう意味深な表情で言う楓に、殺生丸は ふん。 と鼻を鳴らし
「それがどうした。」
と低い声で呟く。


「人の成長は早い。そろそろりんのこと、真剣に考えてみる頃じゃないのか?」




「………。」




「まぁ今すぐとも言わぬがな。なんせりんは、身体が大人になったところで中身はまだまだ子供じゃ。今どうするか聞いたところで答えは見えておろう。」
そう溜息混じりで言う楓。


「りんには、いつ会える…?」


「あれは病気ではない、まぁ2、3日は身体の怠さが抜けんだろうが、あとは何の心配もいらんだろう。」
そう楓が言うと、殺生丸はそれに背を向け
「ならば10日後に来る。」
とだけ言い地を蹴ろうとした。




その時ーー。




「待て殺生丸どの。」


楓に呼び止められ殺生丸は目だけそちらへ向ける。


「りんに話す気か?あの子の答えは決まっておるぞ。」
楓は再び殺生丸に近付いた。


「だとしても、りんの口から聞かないことにはどうにも出来ぬ。」

「ならばりんが望めば、お主はこれからも今まで通り…。」


殺生丸は視線を真っ直ぐに戻すと、
「りんの好きにさせる。」
と静かに言い飛び立った。


「あっ!殺生丸さままってぇ〜!」
辛うじて毛皮に引っ付いた邪見を見送ったあと、楓は一人りんの眠る家を振り返る。










りん…。
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