バレンタイン&ホワイトデー企画




「お邪魔しま〜すっ!」


「あっ、りんちゃんっ!」
かごめは畳んでいた洗濯物を置いてりんを振り返った。


「ごめんね、わざわざ来てもらっちゃって。」

「いえ、ちょうど時間空いてたのでっ!」
そう言いながら草履を脱いで家に上がる。




「何か用ですか?」

「そうっ。りんちゃんにあげたいものがあってね!」

「あげたいもの?」
首を傾げるりんの前にかごめは一つの箱を取り出した。


「これこの間ね、犬夜叉が妖怪退治に行ったお屋敷で、お礼に貰ってきたのよ!」
そう言って箱の蓋を開けると…


「わぁ〜、なんですかこれ?」
りんは目を丸くして歓声を上げた。



「 お饅頭(まんじゅう)よ! 」

「お饅頭?」

「そうっ!食べて見て!」

かごめに言われるがまま、りんは饅頭を一つ手に取り恐る恐る口に運ぶ。



「どう?」

「わぁ〜!!なにこれっ?美味しい〜!!」
始めて口にする饅頭に思わず顔を綻ばせるりん。


「でしょ〜?この時代じゃ、甘いものなんて滅多に食べられないから有難いわ!」

「あたし、こんなに甘いもの始めて食べました!」
そう言って残りの饅頭もペロリと口に運んだ。


「うふふ、気に入って貰えて良かったっ!楓おばあちゃんや珊瑚ちゃんたちにあげたら一つ余ったから、りんちゃん持って帰っていいわよ!」

「えぇっ?いいんですかっ!?」

「もちろんっ!りんちゃんにはいつもいろんなこと手伝って貰ってるし、そのお礼!」

「わぁ〜、ありがとうございますっ!!」
りんは嬉しそうにそう言うと、大事そうに箱の蓋を閉めた。


「明日は丁度バレンタインデーだし、本当良い時に甘いものが手に入ったわよねぇ。」
竃に茶を入れに行ったかごめに、 ばれたいでぇ? と首を傾げるりん。


「バレンタインデーよ。あたしのいた時代にはね、一年に一度、大切な人へチョコレートなんかを贈る行事があるの!」

「とこれいとぉ?」
次から次へと出てくる聞き慣れない言葉にりんは首を動かす。


「うーん、この時代にはチョコレートってまだないかなぁ。まぁチョコに限らず、甘いもの全般を贈ったりするの!基本的には女の子が好きな男の子に贈る行事なんだけど。」

「へぇ〜!素敵ですねぇ、ばれたいで!」
そう言ってりんは差し出された茶啜った。








ーーーーーーーーーーーーー








翌日。




「それでねっ、弥勒さまったらまた珊瑚さまに怒られちゃったんだよっ!」


りんが楽しそうに話しをするのを、殺生丸はいつもの大木に寄り掛かりながら聞くともなしに聞いている。


そしてかごめの話に移ったとき、りんが突然
「そうだっ!殺生丸さまっ!」
と言って立ち上がった。


「ちょっとここで待っててっ!すぐ戻るからっ!」
そう言って村へと走り出したりんの背中をただ黙って見詰める殺生丸。


途中 帰らないでね〜!! と振り向いて念を押すりんは、自由奔放で気分屋の殺生丸をよく知っているからこそ。




りんは猛スピードで家へと向かった。








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「おやりん。もう殺生丸は帰ったのか?」

「いえ、ちょっと取りに帰りました!」
りんはそう言って棚から箱を取り出した。



「それは…。」

「この間、かごめさまに頂いたやつですっ!」

「饅頭か、そんなものどうするつもりじゃ?」

「楓さまっ!今日はばれたいでですよっ!」
りんは楽しそうに言うと、上がった息を整える間もなく再び走って家から出て行った。




「ばれたい…?なんじゃあ?」








ーーーーーーーーーーーー








「あれ?りんちゃん?」
りんが丘へと走って行く姿を見つけたかごめが口を開いた。

「殺生丸が来てんだろっ。あいつの匂いがする。」
隣を歩く犬夜叉はさも機嫌悪そうに言う。


「うん、でもあの箱…。」
そう言って少し間を開けると、 もしかして!? と顔をニヤけさせた。








ーーーーーーーーーーーー








「お待たせーーーっ、殺生丸さまっ!」
りんは駆け足で殺生丸の元へと駆け寄り、 これっ! と持ってきた箱を差し出した。

殺生丸がゆっくりとそれに目をやる。


「殺生丸さまっ、今日は何の日か知ってるっ?」
そう言ってりんは瞳を輝かせた。


当然殺生丸が知るはずもなく、 今日…? と言って眉を潜める。



「あのねっ!今日はばれたいでの日なんだよっ!」


聞き慣れない言葉に益々顔を顰める殺生丸。


「かごめさまの国ではねっ、この日に女の子が男の子に甘いものをあげたりするんだって!」

“かごめ”と言う名を聞き、 あぁまたか。 と殺生丸は呆れる。


あの小娘はよく分からん風習や言葉を度々りんに吹き込んではいらぬ知恵を付けさせる。

今回の“それ”もその類か。



「でねっ!殺生丸さまっ。これ、この間かごめさまに貰ったんだけど…殺生丸さまにあげるっ!」
そう言って差し出していた箱を更に殺生丸の顔へ近づけた。




「………。」
殺生丸は黙ったまま臭覚をそちらへ集中させる。








甘い…。
その箱から漂うのは甘い匂い。


「殺生丸さまは妖怪だから、やっぱりお口に合わないかな?」
そう言ってりんが箱の蓋を開けた瞬間、殺生丸は微かに顔を顰めた。








甘い…。


むしろ甘すぎる…。


蓋を開けた途端、殺生丸の鼻腔へ侵入してきたその匂い…。

見た目は白くて丸い小さなものだが、その中から小豆を煮た餡子の甘い匂いが強烈に漂ってくる。


りんはそんな殺生丸の反応を見て
「やっぱり食べたくないかな…?」
と不安気に彼を見上げた。


「…お前が食べればよかろう。」
どうにか言い逃れようとしてみるが…。


「りんはもう食べたもんっ!すっごく美味しかったよ?とっても甘かったし!」




だろうな…。

これ程の匂いを放っているのだ…、どんな味がするかぐらい容易く想像出来る。








「それに…。」

「ばれたいでの日は、女の子から男の子にお菓子を贈る日だから…。」
そう言ってほんのり顔を紅潮させ俯くりん。








「…………。」








「でもっ、やっぱり殺生丸さまのお口には合わないよねっ!!」
そう言って顔を上げた瞬間。



「あっ…。」

殺生丸はりんの持つ箱から饅頭を取り上げると無造作に口へと放り投げた。

そして殆ど噛まずにそれを飲み込む。




あっ…。
それを見たりんは
「駄目だよ良く噛まなきゃっ!喉に詰まっちゃうよっ!?」
と心配そうに言った。


だが当の殺生丸は、この甘ったるい口の中をどう処理するか、そのことで頭が一杯だ。



こんなもの、いつまでも口の中に入れていては目眩がするわ。



そんな彼を他所に、りんは目を輝かせて
「おいしい?殺生丸さまっ。」
と身を乗り出す。








「あまい…。」
顔を顰めて言う殺生丸は、どう見ても美味しいものを食べた後には見えない。


りんは うふふ。 と笑うと
「ありがとうっ、殺生丸さまっ!」
と言って嬉しそうに笑った。



その笑顔に思わず目を細める殺生丸。



“これ”が見れると分かっていたから…。



口の中の甘ったるさも忘れ、殺生丸はりんの頭に手をやり優しくそれを撫でた。
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