発熱
季節は冬。
辺りの木々は葉を落とし、茶色の細い枝が寂しく並ぶ森の中を、殺生丸一行は進んでいた。
まだ真昼間だというのに、辺りに漂うのは身を切るほどの冷たい冷気。
しかしそんな凍える寒さも、殺生丸には何の支障も来たさない。
ただ真っ直ぐを見つめる無表情な横顔は、今が真冬だということを忘れさせてしまうようである。
しかしその後ろを歩く少女をみれば、忽ち今が真冬だということに気付くだろう。
悴んで真っ赤に染まった手足に白い息。
懸命に殺生丸の後を追おうとする気持ちとは裏腹に、りんの足は確実に速度を落としていった。
このままじゃ付いて行けない。
そう感じたりんは、微かに震える口を開いた。
「阿吽、少しの間、背中に乗せてくれない?」
りんは前を行く殺生丸と邪見には聞こえないように小さな声で言った。
「グウウ。」
阿吽はりんの頼みを承諾したのか、僅かに足を折ってみせる。
「ありがとう…!」
りんはそう言うと阿吽に跨がりそのまま俯せになった。
「あったかい…。」
阿吽の背中は想像以上に温かく、思わず顔が綻ぶりん。
そしてそのまま、りんは深い夢の中へと落ちていった。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
日も暮れ始め、昼間の寒さなど比にならないほどに冷たさが増してきた。
一行は足を止めることなく、先ほどとまったく変わらない足取りで先に進み続ける。
そんな中、いち早く少女の異変に気付いたのは阿吽だった。
先ほどから背中に感じるりんの熱。
それが徐々に上がっていくのを、阿吽は感じていた。
今じゃ熱いぐらいに感じられ、どうにも正常には思えない。
阿吽はその異変を知らせるため、前を歩く主を呼んだ。
「グウウ。」
「ん?なんじゃ阿吽?」
邪見が振り返る。
「グウウ。」
阿吽は再び鳴き声を上げた。
邪見は阿吽に近づき、
あぁ。
と納得した声を漏らした。
「そう言えばずっと乗っておったなぁ。」
そう言って阿吽の背にまわる。
「そろそろ腰が痛くなってきたか?まったくお前も年じゃなぁあっておいっ!!!お前どーしたんじゃっ!?」
邪見は真っ赤に紅潮したりんの顔を見て大声を上げた。
「ん……、じゃけん……さま?」
口をもぐもぐさせながら呟くりん。
「お前、顔が真っ赤じゃぞ!!どーしたんじゃっ?」
「んん…なんか…頭が痛くて……。」
そう言うと、りんは再び眠りについた。
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