トラジックデー

目の見えない私には、何が起こったのか分からなかった。湿気ってカビ臭い部屋に閉じこめられたかと思うと、その数分後には父の、母の、断末魔のような悲鳴が響いてきた。
沢山の足音、金属音、止まない悲鳴、知らない大人の汚い笑い声、むせかえるような生ぬるい血の匂い。沢山の音が、匂いが、一気に私に流れ込んできて、強い耳鳴りがして、頭が痛くてぼんやりして、空っぽの胃から吐き気がこみ上げてきた。

一緒に閉じこめられたバクラを探して、震える腕で宙を探る。古い布切れの端に手が当たり、やっとバクラを見つけられたとほっと胸をなで下ろした。それを辿ってバクラの腕を掴むと、バクラはびくりと体を震わせた。

どうしたの、と小さく囁こうとすると、すぐにバクラに口をふさがれる。そのまま扉を慎重に閉める音が聞こえたかと思うと、バクラは私を抱きしめた。どうやらこっそりと外の様子を覗いていたらしい。カタカタと震える体が外の恐ろしさを物語っていた。

ねえバクラ、
あなたはいったい何を見たの?

聞くことは、出来なかった。










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クル・エルナ村のお話。

(20100211)
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リゼ