士官学校の夜も早い。

夕食後の自由時間のうちに入浴やらレポートやらを済ませたかと思うと22時には就寝だ。
まったく、これなら最近の初等学校のこども達の方が遅くまで起きているだろう。
そんなに早い時間に眠れる訳が無いと思うが、周りはそうでもないらしい。
日中の実技やら講義と課題にグッタリして泥のように眠れるらしい。

「エルリック、電気消すぞ。」

「ああ。」

夕食後に眼鏡をかけて読書をするエルリックを眺めたりシャワーをなんとか覗こうと奮闘している内にあっと言う間に22時だ。
部屋が暗くなるとエルリックは二段ベッドの上に上がっていく。

「明日から三日間実戦演習だってな。エルリックとチームが別れて残念。

「…………。」

「そのあとはみなさんお待ちかねの休暇だ。なぁ、エルリック、」

「断る。」

デートしようと誘う前にあえなく玉砕。

「……少しだけなら時間がとれるから飯ぐらい付き合ってやる。」

部屋の中に響くエルリックの声は穏やかだ。
そして時々聞こえるカサカサと紙をめくる音。

「ありがとう。……リゼンブールに帰るの?」

「二日だけだけどな。」

ああ、きっと手紙だ。
彼の故郷から届いた手紙。受け取るといつも大事そうに胸に抱えている。

「ゆっくりしておいで。」

二段ベッドの上で微笑みながら手紙を読んでいるだろうエドワードに呟いた。

「……うん。」


俺の呟きに応えた声はいつになく優しいものだった。
文武両道、国立研究所から誘いがくる頭脳、優秀な成績。
強くてきれいなエドワード・エルリック。本当は意地っぱりで淋しがりや、そんな可愛らしい面は俺しか知らない。









end







戻る
リゼ