gamin!
久々の休日。セントラルの街中にある古書店で掘り出し物を手に入れた。家に帰り、本を片手にのんびり過ごそうかと足を進めていると、
「ん?」
視界の端にちらついたのは鮮やかな金。見覚えがあるそれに思わず視線を向けると、そこには、
「鋼……の?」
鋼のが軍を退役してから数年。残念ながらあまり身長は伸びなかった様だが、幼い顔は大人びて美人になった。長い金髪を頭の上で縛り、シンプルなエプロンを付けている。いつの間にセントラルへ越して来たのだろうか。
声を掛けようと近づくと、
「かあさん!」
ぱたぱたと駆けてきたこどもが笑顔で鋼のに抱き着いた。
「アリー、夕飯は何にしようか?」
穏やかに微笑んで頭を撫でる鋼のは、母親その物だった。
目の前の光景に俺の頭は混乱している。鋼のは男じゃなかったのか。鋼のは10代、こどもは少し早いのではないだろうか。旦那がいるのか、しかしよくアルフォンスが許したな。そして何より、なんでときめいているんだ、俺は。
鋼の、あの鋼のだぞ。そしてどうやら人妻だぞ。
「シチューがいい!」
「じゃあ買い出しに……、大佐?」
ああ、視線が合った。
「久しぶ……って、どうした?顔が青ざめてる。」
そんなに情けない顔をしているのだろうか。
「俺の家、近いから休んでけよ。」
「あ、ああ。」
頷くだけで精一杯の俺の手を取り、もう片手ではこどもの手を引き、鋼のは少し急いで家へと案内してくれた。
「ほら、横になってろ。アリー、水を持ってきて。」
街中に立っている家は、こじんまりとしているが住み心地が良さそうだ。
ソファーに横にさせられた俺は鋼のを改めて見つめる。
「久しぶりだな。鋼……いや、エドワード、結婚おめでとう。」
「大佐……俺、結婚してないけど。」
「なんだと?あの子の父親はどうしたんだ!」
鋼のは確かに乱暴で短気だ。だが真っすぐでその心は澄んでいる。こんな可愛い妻を見捨てるとは……
「よし、エドワードを弄び幼い我が子を見捨てた愚か者の名前を教えてくれ。私が焼……根性を叩き直してやる。」
俺が真剣に放った言葉に、エドワードは笑い出した。
「アンタ、誤解してる。男の俺がこどもを産める訳無いだろう。あの子は、孤児だよ。まだ2歳の頃だったかな……玄関の前に倒れていたんだ。それから面倒を見てる。」
「うん……?」
エドワードのますます笑いは大きくなり、ついには腹を抱えだしてしまった。
「何?それで青ざめてたわけ?馬鹿だなー。」
なんだ。誤解だったのか。それならば良い。何故かホッとしている自分。……まぁなんとなく理由はわかるが。
「おじちゃん、おみずどうぞ。」
そこへ水を汲みに行っていたこどもが帰ってきた。大笑いする育ての親を見てフフっと小さく笑った。
「かあさんたのしそう。」
「アリーちゃん、父さんも欲しくないかい?」
その言葉に少し考えた後、こどもはうんと頷いた。
「じゃあおじさんが今日から君の父さんだ。」
「ほんと?やった!……アルくんと、リンリンと、はぼにぃと……おとうさんいっぱーいでうれしいな!」
end