親バカ











「あのさ、ロイ。……お願いがあるんだけど。」

久々に再開したエドワードが上目遣いで頼み事。普段は意地っ張りでなかなか甘えてくれない可愛いこの子が頼み事とは珍しい。
ここは恋人として、なんでも叶えてやりたい。

「なにかな?」

「あのさ、一緒にダブリスに行って貰えないかな?」

ダブリスは伝統的な景観が美しい地方都市の一つだったな。確か、エドワードの錬金術の師である女性が住んでいるとか。
ダブリス、と口に出したエドワードの顔が若干青ざめて見えるのは気のせいだろうか。

「ああ。今週は休みがあるから大丈夫だよ。観光かい?」

「……俺の師匠がロイに会いたいんだって。歓迎するから是非って。」

「わかった。楽しみにしているよ。お土産は何がいいだろうね。」
この時、私は気が付かなかった。エドワードのひきつった表情と、彼の師の歓迎の意に。

それから数日、エドワードと小旅行に出掛けられると張り切って仕事を片付けた。挨拶を終えたら観光をして帰ろうかなどと楽しく予定を描きながら。
そして、今、汽車を乗り継ぎダブリスへ着いた。
道中、エドワードはいつもより饒舌で、緊張を隠しているようだった。まぁ無理も無い。恋人を身内に紹介するのだからな。

「ここかい?」

「うん。……ただいま!」

そこは郊外にある肉屋。
エドワードの声に女性がひょっこりと奥から顔を出した。

「エド、久しぶりだな。」

にっこりと人好きのする笑顔を浮かべた黒髪の女性にエドワードは頭を下げた。

「師匠、お久しぶりです!」

「ああ。……お、アンタがエドの彼氏かい?」

「はい、ロイ・マスタングと申しま、」

はらり、
私の髪の毛が一筋、落ちる。一瞬、何が起こったか理解出来なかった。
横を見ると壁にめり込んだ拳。どうやら反射で避けたようだ……エドワードの師からの一撃、

「って、何故ですか!」

「え?よけないでおくれよ。可愛い教え子に手を出したバカが気に入らないからボコボコにしてやろうと思ったのに。」

先程までの笑みはどこへやら。指をバキバキと鳴らしながら臨戦体制な彼女の後ろには般若が見えるようだ。

「覚悟はいいかい?軍人さん。たーっぷり歓迎してあげるよ。」

「うわ、……助けてくれ!エドワード!」

いつの間にやら私達から離れた場所に逃げていたエドワードがぽっりと呟いた。

「ごめん。無理。」







end





リゼ